ピティナ調査・研究

第2章:感受力&即応力(3)音情報の輪郭を知る

何を聴いている?~グローバル時代のための聴力
2
感受力&即応力
③ 音情報の輪郭を知る
音楽はどのような順序で聴き取られている?

音楽を身体全体で体感すると、音楽に“触れている”、音楽の中で生きている感覚が生まれる(第2章?「聴覚と身体を結びつける」)。子供は「?」「!」と思ったものに自然に耳を澄まし、手を伸ばす。それから音楽の文法や奏法を知ると、“そうなってるんだ!”という気づきが生まれる。そのような学習体験を繰り返すうちに、脳神経がつながり回路がつくられていく。

ところで、音楽の聴取は右図のようなプロセスをたどるそうだ(右図:“(視覚系と聴覚系の認知機能『情動と音楽の起源―情動の進化と脳機能』川村光毅)。

“音楽は認知と運動と情動の3つの系が連動して活動した結果起こる、高次神経(・精神)機能のひとつのaspect(現象形態)であると考えています。”(視覚系と聴覚系の認知機能『情動と音楽の起源―情動の進化と脳機能』川村光毅
リズム、拍(時間軸)

学びを繰り返すうちに、音情報の輪郭が浮かび上がり、様々な要素が複層的に見えるようになり、さらに意味づけされていく。聴覚を自在にチューニングできるようにするのが聴音である。上図にもあるように、音楽は「リズム」⇒「メロディ・ハーモニー」⇒「全体の空間的まとまり」⇒「フレーズ毎の順序を描く」⇒「演奏する」の順に認識され、知覚から運動へ変換されていく。

たとえばラヴェルのバレエ音楽『ボレロ』を想像して頂きたい。リズム奏から始まり、メロディが入り、様々な楽器がハーモニーを作りながら、フレーズが有機的につながり、すべての楽器が合奏して終える。まさにこのプロセス通りの、絶妙な1曲である。

この情報処理プロセスは、音楽の歴史的変遷とよく似ている。リズムがもっとも原始的である。たとえば霊長類であるゴリラは胸をたたく(ドラミング)。旧人であるネアンデルタール人も手拍子などリズムをたたいていた。紀元前の古代ギリシア時代には音楽・演劇・文学などが盛んになり、長音節と短音節による韻律が生まれた。ローマ帝国時代には弁論術が学ばれ、リズムは声と身体に現れるもので、音楽を学ぶことは弁論家に有用だとされた。

中世には教会音楽が広まり、リズムモードが生まれたり、記譜法の発達とともに音価や小節線の扱い方も定まってきた。またこの頃、宮廷や農村など世俗社会では多くの舞曲が生まれた。2拍子のガヴォット、ブーレ、リゴドン、ポルカ、アルマンド、シャコンヌ、3拍子のメヌエット、ワルツ、ジグ、サラバンド、6/8拍子のフォルラーヌなど、多くのパターンがある。これらは様式化され、バロック期以後も多くの音楽に多く取り入れられていった。そして調性音楽の発展に伴い、リズムや拍はさらに多様化・複雑化(そして解放化)する動きが生まれた。

こちらは数年前になるが、パリで行われた「リズムを体感する」ファミリーコンサートである。(参考)『いろいろなリズムを体感してみよう!』レ・シエクル管弦楽団
リュリ:「トルコ人の儀式のための行進曲(Marche pour la ceremonie des Turcs, Alceste ou le triomphe d'Alcide, Rondeau pour la Gloire)」

  • テレマン:「食卓の音楽(Musique de table no.1, Rejouissance)」
  • シャルパンティエ:「テ・デウム(Te Deum, Prelude)」
  • ヴィヴァルディ:「四季」より夏(L'ete, Final)
  • ラモー:「ダルダニュス」よりリゴドン(Suite de Dardanus, Rigaudon)」
  • シュトラウス:「美しく青きドナウ(Le beau Danube bleu)」
  • バーバー:「弦楽のためのアダージョ(Adagio pour cordes)」
  • マントヴァーニ:「ストリート(Streets)」
  • ブーレーズ:「打ち手のない槌(Le Marteau sans maitre, L'artisanat furieux)」
  • スペシャル・ゲスト&全員で合唱

リズムや拍は、時間軸に一定の法則性・規則性をもたらすもので、それはコミュニケーションの手段でもあり、いわば社会や文化の始まりともいえる。

メロディ・ハーモニー(空間軸)

リズムや拍が時間軸を分節するものであれば、メロディやハーモニーは空間軸を分節するものである。旧人であるネアンデルタール人がハミングをしていた頃から、メロディらしきものはあった。偶発的なハーモニーも生まれていただろう。理論化されたのは古代ギリシア時代で、ピタゴラスにより8度、5度、4度の完全協和音程が発見され、音楽はハルモニア(調和)であるという考え方も生まれた。また旋法が用いられ、イオニア調は緩やかな調べなので酒宴用、ドリア調は勇猛果敢な戦士向けなど、精神修養や倫理教育にもつなげられたのは同時代の特徴である。7世紀にはキリスト教の普及とともに単一旋律のグレゴリオ聖歌が広まったが、12世紀頃に北方ゲルマン民族の器楽合奏音楽と融合し、多声音楽が生まれたという説がある(『音楽と言語』p48、G・トラシュブロス・ゲオルギアーデス著、木村敏訳、1999年)。しかし中世までは「神の意思」とされた完全協和音程以外はほぼ協和音と認められず、とくに増四度は悪魔の音程とされた。またハーモニーもまだ偶発的なものであった。

一方ドイツでは宗教改革によってプロテスタントが広められ、中心人物マルティン・ルターは民衆がドイツ語で歌えるようコラールも書いた。その伝統を受け、ハーモニーの進行が音楽を推進する時代がくる。長3度などを新たな協和音程として受け入れ、さらに平均律の導入によって、人々は自由自在に転調できる合理性を手に入れた。これを象徴するのが1720年代前半、J.S.バッハ『平均律クラヴィーア曲集I・II巻』や、ラモー『和声論』であった。調性音楽はここから大きく展開していく。より多彩・多様に表現するために、協和音の感覚はさらに多様化し、不協和音も取り入れられていった。

聴覚は"社会化"する。美や快とされる音は、時代や音楽や個人によっても異なる。多様な音を受けとめる聴覚とは、多様な意味づけができる知覚でもある。その意味で、音楽は情動だけでなく、知覚も広げてくれる。一方で心地よさや美しいと思える音や自然の音を聴きたくなるのも、人間の本能である。社会の一部である前に、自然の一部だから。

フレーズ、文脈、時代様式・形式(時空間のまとまり)

リズムや拍は時間軸を分節するもの、メロディやハーモニーは空間軸を分節するものであるならば、フレーズは時間軸×空間軸を分節するものである。その「時空間のまとまり」を順序よく積み重ねることで、意味づけされた文脈ができる。

そしてその文脈は、特定の様式・形式によって特徴づけられる。 音楽も言語と同じく、特定の文化(単一あるいは複合的に)に根差しているものが多い。第2章①でご紹介したパリ管弦楽団ファミリーコンサートでは、ワルツ(オーストリア)、ポルカ(チェコ)、パヴァーヌ(フランス)、ボレロ(スペイン)、マンボ(アメリカ)等、様々な国の舞曲形式が盛り込まれていた。また様々なリズム・拍子、音色(フルート、タンバリン、カスタネット等のソロ)、響きや色彩感(フランス、スペイン、中国、アラビア風・・)、テンポ(ゆったり~速い)、そして同主題の表現比較(チャイコフスキーとプロコフィエフの「ワルツ」)などの要素も。2000人を超える子どもたちが、音楽に身体をゆらし、一緒に手をたたきながら、その音空間を思いきり楽しんでいた。

 

第2章(4)音・イメージ・指を結びつける

耳をひらく TOPへ