ピティナ調査・研究

第1章(3)聴覚には何が聞こえている?

何を聴いている?~グローバル時代のための聴力
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今、聴覚はどのくらい活かされているのか?
③ 聴覚には何が聞こえている?
音楽の周波数領域は、言語より広い

人間が聞き取れる音の範囲は、20ヘルツから20000ヘルツとされる(右図は「人間が聞き取れる音の範囲」エンジニアのための人間工学P48 )。その中で、成人した人間が聞き取っている範囲は、通常250ー300ヘルツの低周波音域という。ピアノは27.5ー4186ヘルツというから、かなり幅広い音域である。さらに脳のためには4000ー8000ヘルツの高周波音域を聞き取るのが良いとされ、それらは虫や鳥の鳴き声、川、海、雨、風といった自然界の音である(参考:『音のなんでも小事典―脳が音を聴くしくみから超音波顕微鏡まで』p212、p46、日本音響学会、講談社、1996年)。さらに20000ヘルツ以上、つまり可聴周波数帯域を超える超高周波を含む音が、人間の基幹の脳を刺激し、免疫機能を高めて心身機能を改善する、ということが確認されているという(『いい音・いい波動の教科書』藤田武志著、2016年)

音楽を学んでいる人の聴覚は、自然に幅広くなると考えられる。

「人間が聞き取れる音の範囲」エンジニアのための人間工学P48
「聴く」は、多様性の一歩か

では「聞こえていても、聴いていない」という状況はなぜ起こるのだろうか?
我々は日々多くのものを耳にしているが、その中から無意識的に自分が関心をもったものに焦点をあて、それが際立って聴こえるようになっていく。その関心とは、家族や友人、学校の先生であったり、様々な音楽や楽器の音、時には自然や動植物の音であったりする。それらが言語や音楽の場合には、単なる音声の連続ではなく、脳内で意味づけされていく。つまり文脈として聞くようになる。しかし逆に自分が理解できる文脈でないと、または自分の感情や思考と異なる音情報を耳にすると、「聴かない」「聴く耳をもたない」ということも起こりうる。つまり音情報を受けとるのを止めてしまう。そう考えると、「聴く」というのは、「音を認知して理解する」「理解したものを受け入れる」ことと密接に連動しているだろう。つまり、能動性や自発性と関わりがある。

音声情報は様々な経路をたどって前頭前野まで運ばれ、そこで初めて意味づけがなされる。耳をひらくというのは、この神経回路を少しずつ作っていくことなのかもしれない。意識して様々な音を聴くことが、知覚の領域を広げ、より多様性を受け入れることにも繋がると考えられる。音楽は幅広い周波数を含んでいるので、その可能性を大きく広げてくれるのは間違いないだろう。

第1章(4)音楽の多義性