ピティナ調査・研究

第10回:ピアノの能力が上がると、他の能力もアップする?(2)非認知能力

脳科学者・瀧靖之先生が答える 「ピアノって本当に脳にいいの?」

第10回:ピアノの能力が上がると、他の能力もアップする?(2)非認知能力

第9回では、脳への刺激によりその領域の神経細胞や体積を物理的に増加させること、そして刺激を受けた領域では、それに関わる機能全般がアップする「汎化」の作用から、ピアノ学習が持つ、他の分野の能力向上への影響を見てきました。今回は、ピアノ学習で高められる別の側面の能力、「非認知能力」について考えていきましょう。

「熱中体験」を通して様々な「非認知能力」が高まる

ピアノ学習によって高められると考えられている能力に、「非認知能力」と呼ばれるものがあります。IQなど数値化して測れるような知力、学力を主に「知能力」と呼ぶのに対して、数値などでは測りにくく、目には見えにくいけれども、人が社会で生きていくために必要な諸能力が、「非認知能力」として近年世界的に注目されています。

「非認知能力」に明確な規定はありませんが、ピアノ学習により高められると考えられる「非認知能力」には、例えば、意欲、知的好奇心、自己肯定感、主観的幸福度、自信、コミュニケーション力、共感する力、やり抜く力、困難を乗り越える力、忍耐力…のようなものがあります。

一つ一つ解説することはしませんが、これらの「非認知能力」を伸ばすためにピアノ学習で特に大事なことは、「熱中体験」だと考えています。ピアノ学習は「好き」から入るといいという話をしましたが(第8回第9回)、そこからさらに「ハマる」「熱中する」という段階に入ると、「これが弾きたいけれど、難しいな」という困難にぶつかった時でも、トライ&エラーを繰り返しながら、「乗り越えよう」「やり抜こう」とします。その過程で、知的好奇心や意欲、忍耐力、困難を乗り越える力(レジリエンス)、やり抜く力(グリッド)、などの様々な能力を獲得していきます。これがまさに、「非認知能力」の究極の形だと思っています。

こうして獲得した様々な「非認知能力」は、ピアノ学習を超えて、学業でも趣味でも仕事でも、あらゆる分野で発揮することができます。

「究め方」を身につけると、他の分野でも通用する

一つのことを究めると強いと言われるのは、「究め方」を身につけているからなのです。何かを究めたいという熱意を持っていたら、どうやったら分かるのか?どうやったらできるのか?自分に合った学び方を模索するでしょう。課題解決のために真摯にコミュニケーションを図るでしょう。目的のためには忍耐も苦ではないでしょう。知的好奇心を満たし、やり遂げたことで感じた達成感は自信をもたらし、自己肯定感や主観的幸福度を上げるでしょう。

一つの「究め方」を覚えると、究め方のコツが分かり、それは他の勉強でもスポーツでも、人生のあらゆる局面で発揮することができます。高学歴の人や、社会的に成功を収めている人には、「私は一つのこと、これしかできません」という人は実はほとんどいなくて、勉強はできる、けれどピアノもすごくできる、水泳ができる、陸上ができる…という人がたくさんいるのは、こうした「究め方」を身につけているからなのです。

ピアノ学習は、「熱中体験」を通して、そうした「究め方」を学ぶのに非常に適したツールだと私は考えています。ピアノなどの得意分野を徹底的に伸ばすことで、楽しく「究め方」を身につけることができ、また自信がつくことによって新たな挑戦への意欲も湧く、というように、他の分野にも得意分野が広がることにもつながると考えられます。

ピアノに熱中した経験のある人は、「少しでもここをうまく弾きたい」と思って努力した時に培った、試行錯誤、忍耐力、課題設定の工夫やモチベーションの維持の仕方、達成感…それらが、受検勉強や仕事での困難に立ち向かう時など、その後の人生の要所要所でよみがえってくる、そんな感覚を持っていることが多いのではないでしょうか。この機会に振り返ってみるのもよいかもしれませんね。

(取材:2019/7/23, 2020/1/21 二子千草)

3月2日に予定されておりました、瀧靖之先生による保護者のための特別講演会は、新型コロナウィルス感染対策のため、延期となりました。詳細が決定しましたら追ってお知らせいたします。