第3回:「譜読み」と「仕上げ」では、脳の使い方が違うの?
第3回「譜読み」と「仕上げ」では、脳の使い方が違うの?
第2回では、「楽譜を見てピアノの鍵盤をたたいて、その音を聴く」だけでも、脳のありとあらゆる領域を使っていることが分かりました。でも、この働き方って、いつも同じなのでしょうか…?
使う脳の領域は基本的に同じですが、使い方が変わってきます。
脳の神経細胞は、ふさわしい細胞につなげるため、ネットワークを作ります。これは道路建設に似ています。必要な所に一般道を作り、実際に使ってみます。よく使う道路は機能性が優れた強固な高速道路となり、逆に使わなくなった道路はどんどん壊されていきます。
こうすることで道路の管理が楽になり、つまり、脳を効率よく使えるようになります。このように、よく使う脳細胞間の情報を、素早く的確に伝達できている状態を、「その領域が発達している」と言います。
はい。ピアノは両手で違う音を奏でるので、トレーニングを重ねることで、こうした領域の細胞間のみならず、左右の脳をつなぐ脳梁という神経線維も発達して厚くなり、左右の脳の連絡がスムーズになります。
そうです。初見の時には、関わる全ての脳領域をフル活動させて弾いているのですが、繰り返し練習により慣れてくると、一部の過程が自動化され、省エネで弾けるようになるということです。いちいち確認しなくても鍵盤の位置や指の運びを覚えているなど、皆さんも経験されているでしょう。これは、習いたての人と継続している人との脳の使い方の違いでもあります。
脳のネットワークが高速化しても使ってはいるのですが、新しいことをやった方が脳のネットワークがより育つことは確かです。
テキサス州立大学で行われたある実験では、新しい知識に取り組むグループと、既存の能力だけで充分な活動を行うグループに分けた所、前者の方が「記憶力」「処理速度」ともに、以前よりアップしたという結果が出ました。つまり、使っていない脳の領域を刺激することにより、脳のネットワークは育つことが分かったのです。
ですから、練習がマンネリ化した時に、新しい曲や違うアプローチを取り入れることは、脳の発達という面からしても利点があると言えますね。
次回へつづく。
(取材:2019/7/23 二子千草)
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