ピティナ調査・研究

第4回:ピアノ演奏の脳の働きは、何の活動と似ている?

脳科学者・瀧靖之先生が答える 「ピアノって本当に脳にいいの?」

第4回 ピアノ演奏の脳の働きは、何の活動と似ている?

第2回、3回では、ピアノを演奏する時の脳の働きを、具体的な領域や順番とともに見てきました。この脳の働きは、他のどんな活動での脳の働きと似ているのでしょうか。

ピアノ演奏とスポーツは、脳のメカニズムが似ている
ピアノを演奏する時の脳の働きは、何の活動の時と似ているのでしょうか?

まずは、スポーツです。スポーツは一般に粗大運動、楽器演奏は一般に巧緻運動になりますが、身体の動きを覚えて再現するという点で共通点が多く、実際に脳の活動としても共通していると言えます。

スポーツをする時には、視覚野(視力)頭頂葉背側(空間認知)前頭前野(実行機能)・運動野(運動)といった多くの領域を駆使しています。特に瞬時に戦略を考えて運動を制御する種類のスポーツは似ていると言えるでしょう。机に向かって本を読むというような行動とは、脳の活動の領域が大きく異なります。ただ、スポーツでも、その場の音や声などの聴覚情報も使っていることは確かですが、ピアノを弾く時ほどの音の処理は行われていません。

音楽教育で英会話の素地ができる
では、音を処理して行動に移す点が似ているのは?

その点で似ているのが、英会話です。第2回で、音を聴いて理解するのに使われる領域が、聴覚野と2つの言語野である、という話をしましたが、実は、「言語の音」を処理する所と「音楽の音」を処理する所は非常に近く、むしろオーバーラップしています。

音楽をやっていると、英語の子音やリズムの聞き分けが上手になると言われているのも、そのためです。また、特に幼少期は、言葉を内容ではなく「響き」として聞き、「音」として覚えるという点も指摘されています。音楽教育を通して特に細かい音の分解能が上がる可能性があることから、母国語の能力だけではなく、子音の微妙な聞き分けが必要な英語のような外国語の習得にも効果があるとみられています。

外国語習得に適した時期は、言語の領域が発達のピークを迎える8歳から10歳ごろと言われるのですが、その前にピアノなどの音楽教育で聴覚野や言語野を十分に刺激しておくことで、脳に言語を受け入れる準備をさせることができます。そうした面からも、音楽教育は、言語教育の素地を作るのに効果的であると言うことができます。

次回へつづく。

(取材:2019/7/23 二子千草)