ピティナ調査・研究

第2回:ピアノを演奏する時って、脳のどこが働いているの?

脳科学者・瀧靖之先生が答える 「ピアノって本当に脳にいいの?」

第2回:ピアノを演奏する時って、脳のどこが働いているの?

第1回のインタビューでは、脳科学者・瀧靖之先生に、「ピアノを演奏することは、子どもから高齢者までの脳の健康的な発達と維持に大変効果がある」ことが、ここ10年ほどの最新脳科学の研究で証明されてきていることをお話いただきました。

第2回からは、ピアノ指導者、学習者、そして保護者が普段「何となく聞いたり、経験的に感じているけれど、実際はどうなんだろう?」と思っているような疑問を瀧先生に投げかけ、Q&A形式で分かりやすくお答えいただきたいと思います。

脳の領域にはそれぞれ役割がある
ピアノを演奏と脳の働きにはどういう関係があるのですか?

ピアノを演奏すると、脳のたくさんの領域が活性化される、とよく言われますね。では、具体的にはどんな作業がどんな領域を使っているか、簡単な脳の地図を見ながらお答えしていきましょう。

脳の地図とは?

人間の脳を横から見ると、だいたいこのような形をしています。脳の表面にある大脳皮質は、「前頭葉」「頭頂葉」「側頭葉」「後頭葉」の4つに分かれていて、それぞれ異なる役割を担っています。

人間の脳は後ろから前の方に向かって発達していきます。最初に発達する「後頭葉」は、主に視覚情報を処理する部分です。「側頭葉」は聴覚や記憶を、「頭頂葉」は空間認知などを担います。一番遅く思春期ごろまで発達する「前頭葉」は、主に思考や判断を扱います。

「ピアノを弾く」だけで脳はフル回転!
では、ピアノを弾く時には、どの領域が働くのですか?

「ピアノを弾く」ということには、その過程で実に様々な脳領域が関わっています。ここでは、主な作業と脳領域を簡単に見てみましょう。

見る → たくわえる

楽譜を見てピアノを弾く場合、「見る」という作業は後頭葉の視覚野 ㋐で処理されます。その視覚情報は、側頭頭頂部 ㋑前頭前野 ㋒の「作業記憶(ワーキングメモリ)」を担う領域で一時的に蓄えられます。

弾こうとする → 弾く ← 空間認知

そこから実際に「弾く」前にもう一つ、「弾こうとする」という「実行機能」という過程が入り、前頭前野 ㋒が関わってきます。

いよいよ「弾く」という運動が開始されるわけですが、ピアノの場合、鍵盤の場所や距離感を認知するために、まず頭頂葉背側経路 ㋓にある部分で「空間認知」を行います。

そして「巧緻運動(指先を使った細かな動作)」を担う前頭葉運動野 ㋔からは体のあらゆる部分への指令が出されるわけですが、ピアノを弾く場合、左右の指先、肘、肩、体幹、足の筋肉、関節などと、同時にいくつもの部分に指令を出しています。

聴く → 理解 → フィードバック → 運動の調節

指先の運動によって打鍵された音は、側頭葉にある聴覚野 ㋕で音情報として受け取り、2か所の言語野(ウェルニッケ野 ㋖ブローカー野 ㋗)の働きによって、「これはドだ、レだ…」と理解されます。

弾いた音を聴いて、「間違えた」「大きすぎた」「もっとこう弾きたい」といったフィードバックが働き、瞬時に次の「運動の調節」に入ります。この時には、運動野や聴覚野に限らず、その周辺やもっと深い「視床」「基底核」「脳幹」「脊髄」といった領域までが複雑に関わってきます。

演奏中は、「見る」→「たくわえる」→「弾こうとする」→「弾く」→「聴く」→「フィードバック」の作業が、常に新しい情報を得て、しかも同時進行的に行われているわけです。

こんなにたくさんの領域を使っているのですね!

このようにピアノ演奏は、他のスポーツに負けず劣らず、たくさんの認知機能がフル回転しており、巧緻運動という点では遥かに脳と頭を使った、極めて高度な活動と考えられます。

活動に関わった脳の領域は活性化され、それを繰り返すことで発達が促進されることになります。ですからピアノ学習は、単に「指を動かして弾く」ということだけを取っても、脳の発達に大きく寄与していることが分かります。第1回で述べたように、ピアノ学習にはそれだけに留まらない効果があるので、なおさらです。

この働き方って、はじめて弾く時も、何度も弾いている時も、同じなのでしょうか…?

次回へつづく。

(取材:2019/7/23 二子千草)