098.ただ純粋に良い音楽を
これまで、色々なポイントを書いてきました。
テクニックのポイント(1~20)、音づくりのポイント(21~30)、表現のポイント(31~45)、読譜のポイント(46~60)レッスンと練習のポイント(61~100)。
すべて、純粋に良い音楽を求める際に役立つヒントや、きっかけになってくれるとうれしいです。
そして、その助けを利用することによって、人間の成長と同じように、ピアノもだんだんと自力で弾け、楽しめ、人に聴いてもらいたくなる様になって欲しいです。いつまでもピアノを楽しんで欲しいです。
「ただ純粋に良い音楽を!」というのは、決してピアニストを目指さなくてもよいので、「弾いている曲をステキに表現でき、そのつど楽しむ事が出来るのが良い」と思っているということです。
急に、難しい曲にはたどり着きませんが、現時点でも、立派な曲になってからも同じく、純粋に「良い音楽」を目指してください。
そんなに難しいことではありません。素直に心で感じれば良いのです。
毎日、お稽古を積み重ねることは、たいへんです。取り組めば取り組むほど、難しさに直面し、上手になったらより欲が出て、もっと上手くなりたいと思うので、さらに大変になります。
でもその瞬間瞬間に「きれいだなあ!」と自分の音に思えると、すばらしいですね。自分で、美しいものをいくらでも生み出せるのですから。
誰で美しいものは好きです。曲の途中でつまずいてしまう、違う音を弾いてしまう、途中で早くなったり遅くなったり。それらは美しくないです。美しく良い音楽になるように原因究明をしてより美しく。時間をかけなければならないものもありますが、「三日間で」とか「次のレッスンまで」という目標を持って行う時があっても良いですね。
そして教える側は、特に曲を仕上げる時は、どんなに小さい子に対しても、「美しい」と感じるように導きたいものです。ただ、「音とリズムがあっていたら合格!」というのではなく、たとえ間違えても「ここがステキ!」と感じているような演奏ができるように導きたいです。
特にコンクールの仕上げでは、理想が高ければ高いほど、やらなくてはいけないことが多く、それを伝えるのも、力が入ると、ついつい言葉はきつくなり、体と心はずたずたになっていきます(指導者のです!)。
日々の曲を聴いても、自分が心地よくありたいという欲望から、そうでないものを聞かされたとき、純粋に美しくあるための不足を指導するわけで、どれもこれも、ただ、純粋に良い音楽を目指しているだけなのです。
このところ、ヒートアップしたコンクールで、ただ純粋に良い音を目指すことからはずれて「上手な人が弾いた演奏を真似る」とか「課題曲演奏のCDをコピーしたような演奏が多い」といった、びっくりすることを聞きます。どこまでが本当なのかわかりませんが、人の真似をするとしても、結局は音を出し、創りだしているのは本人ですから良いのかもしれません。ただ、創りだす過程も「純粋」であって欲しいところです。
ほんの一フレーズを作る時、楽譜から読み取れる強弱記号や、感情記号は当然考えた上であっても、弾き方、歌い方はいくらでもあります。いくつかの声部になっている曲では、どの部分を「出す」か、その出し方、それぞれの音をどの位の割合で出すか。そういう微調節をすることで、全く違うニュアンスになったり、いくらでも面白い試みができます。それら全てが、純粋にその曲をよくするための試みで、それが面白いのです。
音楽は「生きている」もので、2度と同じものはうまれず、その都度、新たな感動があり、それを感じながら弾くとまた次のよい音楽につながっていくというような事があります。
本番は、それを人に伝える場で、それまでしてきた努力が実る場でもあります。努力を重ね、実力をつけ、純粋に良いものを求めてきた結果、人に感動として伝える事が出来ます。そして、大きく飛躍できる時です。「本番」での感動があるから、それまで、純粋だからこそ生まれた、葛藤の多くが一瞬にして忘れられ、また一つ良い思い出と、実力が残ります。
楽譜を読むことを知り、美しい音を出すことを学び、自分の感情をそこにプラスでき、人に感動を伝えられるようになってからも、常に初心に戻るようにしましょう。すべてが、ただ「純粋に良い音楽」をめざしていることを忘れずに!
ずいぶん前ですが、発表会にヴァイオリンとチェロを弾く芸高の男の子2人に来ていただき、同級生の私の生徒とコンサートをしてもらいました。せっかくですから、生徒たちとトリオの共演もお願いしました。また、事前に2~3日のリハーサルレッスンをお願いしました。彼らの演奏力はもちろんですが、レッスンがすばらしかったです。
その曲に対して本当に真剣で、「少しでもよくしたい」という情熱にあふれていました。高校生です!共演する生徒たちも、少しお兄さんという感じの彼らが、音楽に対する想いを惜しみなく与え、「ここはこうした方が良くない?」などと相談しながら、音楽を創っていく真剣な妥協のない姿を見て、感じる事は大きかったのではないかと思います。
彼らは、そのステージで競演する曲を、自分たちのレベルにふさわしくするために行っていた普通のことかもしれませんが、「純粋に良い音楽を目指している」そのものでした。
言うならば、ピアノのレッスンはいつも「受身」であることが多いです。生徒たちが彼らの年齢になった時、彼らのように「自ら音楽を作り出す気持ちが芽生えるのかな?」と少し疑問になり、淋しくも感じました。
きっと、そのレッスンを受け、共演した子供たちは「音楽ってこう創っていくのか?」とおぼろげながら感じたのではなかったかと思います。皆、ステキな本番で、「楽しかった!!」と大いに盛り上がりました。
彼らの、何も迷いなく良い音楽を目指す真剣さに、真摯な気持ちにさせられた思い出です。