ピティナ調査・研究

021.音色は思っただけある

100のレッスンポイント

この連載「100のレッスンポイント」は20回にわたって「テクニックのポイント」をお届けしました。 次の10回(第21回から30回まで)は「音づくりのポイント」です。 現代の優れたピアノで、素敵な音をつくりたいですね。

**********

 約18年前、私が今も住む鹿児島へ来た当初、まだ生徒は少ない頃のことです。ある方から「先生の生徒さんは、いろいろな音色を持っていてすばらしいですね、どうやって音色を変えているのですか?」と聞かれた事があります。「『どうやって??』と言われても、、」とまどったのですが・・
 「思っただけ、音色はあるのでは?」というのが、そのとき素直に出た言葉でした。
 時は過ぎて、今では「音色を変えること」はみなさん当たり前にしています。コンクールではむしろ、「音色に変化がないと物足りない」というのが現状です。
 現代のピアノは本当に優れていて、いろいろな音を出せます。
音色作りの面白さに気づいたら、こんなに楽しいことはありません。

 「音」は時間とともに消えていくものですから、その瞬間に感じるしかありません。ピアノの音も、そのままではとても抽象的なものです。
 「お母さんが怒っている音」と「子猫が甘えて、ニャーと鳴いている音」は違いますよね。抽象的な音を具体的に、頭の中でわかりやすく想像しやすいものに置き換えながら、音にしてみてください。
小さい子ほど素直にその気になって、それを出そうとしてくれます。空想の世界にいるからでしょうか?小さい子は、お母さんの怒っている音というと「それはどうやって出すの?」などと聞かず、即座に、ばっちりガンガン弾きます。理屈ではないわけです。

 人間は体験することによって学習しますが、感覚も蓄積していきます。いずれは、必要に応じてとっさに感覚が呼び起こされるようになります。
 音を作るのは指先です。その感覚はとても重要です。
 指先が、ふわふわした羽毛布団の中に入っていくような感覚。硬く冷たいものを触る時の感覚。シュークリームを持つときは、つぶれないようにふんわり持ちますが、水がいっぱい入った重たいやかんを持つ時は、自然としっかり持ちます。
 「こんな音を出したい」とイメージした時に、ぴったり合う感覚が自然によみがえり、それに応じた音が作られるのではないかと思います。
 違ったものを想像すればするほど、音色はいろいろと生まれてくると思います。
まずは、イメージする事が大切だと思います。

エピソード

約8年前の浜松国際コンクールで、アレクサンダー・コブリンの演奏を聴き、「思いどおりに」音色を引き出していることに感動しました。「ここは変わるぞ」と予想したところは確実に、しかも想像以上の変化をするのです。次はどんな音が生まれるのか?とわくわくしたのを覚えています。

その時思ったのは、コブリンの演奏はもちろん真似できませんが、あのさまざまな音色の変化の一部を、自分で出す事は可能かも?ということです。同じピアノなのだから!

 

「ヴァイオリンほど、楽器によって個体差が大きいわけではないのだから」と、感動とともに刺激を受けたのです。

また、同じ「浜コン」で、フランス人のピアニスト(ロマン・デシャルム)が、このコンクールのために書き下ろされた、日本人作曲による現代曲を弾いたときのこと。綿帽子のようなふわふわとした音、キラキラした光の粒のような音が聴こえ、驚かされました。その人が「日本人作品最優秀演奏賞」を受賞したので、やはり!と納得。

 

その後、その曲の楽譜を見て「この絵のような記譜を、音にしたのか!」と改めて感動。確かに、ステージ上に実物の絵がかかっているような音が生まれていました。何年経っても、その強烈な面白さは忘れられません。

試してみよう

音型が違うと、イメージも異なってきます。たとえば、「ドーレーミーファーソラソラソ」と進むとき、前半の音階部分「ドレミファ」では、やさしくふわふわしたものを想像し、続いて、「ソラソラソ」はキラキラした光を想像してみてください。違う質の音が生まれます。

次に「ドーレーミーファーソラソファミ」と弾いてみましょう。 「ドレミファ」は先ほどと同じようにやさしく。「ソラソファミ」のところでは「スカートがくるりとふんわりまわっている感じ」などとイメージしてみてください。よりふわふわとした感じで弾き、先ほどの「キラキラ」とは違った音色が生まれていると思います。

わかりやすいように、まずはオーバーに表現するよう、トライしてみてください。

調査・研究へのご支援