ピティナ調査・研究

030.音の理想を下げない!

100のレッスンポイント

 声楽の人も、管楽器や弦楽器の人は、美しい音を出すために大変な努力をします。

 ピアノはあらかじめ調律されていて、鍵盤を押すと、とりあえず正しい音がでます。「まず音を出す」というところに苦労がない分、楽譜に書いてある音名の鍵盤をただ弾くということも起きがちです。

 逆に言えば、他の楽器は正しい高さの音を出すことすら大変なのですから、ピアノを弾く人はその苦労が無いぶん、美しい音作りにもう少し神経を使えるのではないかと思います。ピアノでも「音作り」にこだわりたいものです。「とりあえず正しい」だけの音には魅力がありません。 美しい音がたくさん集まって、はじめて、全体にすばらしい曲に仕上がります。

 では、どんな音が美しいのでしょうか?

 抽象的過ぎて、「こういう音」と言葉で言い表すのは難しいです。ただ、ピアノが誕生して約300年。
 かなり進化し本当に素晴らしい音がします。純粋に「ワー!きれい!」と思える音が出ます。
 光り輝く宝石を見た時、誰もがきれいと思うでしょう。同じように、誰にでも美しい音は聞き分けられます。  時々、心の琴線に触れ、涙が出る事もあります。

 そんな音を出したいと思いませんか?

 ヴァイオリン等だと、楽器そのものの差も大きいものになりますが、ピアノは、一流のピアニストがリサイタルで使ったのと同じピアノを、同じホールで弾く事が可能です。

 

コンクールの時など、たくさんの人が、同じピアノを弾いても、同じ音質ではありません。しかも同じ先生の生徒さんの音が心に残る場合がありませんか?気のせいではないと思います。  

 ではどうしたら、美しい音が出るのでしょうか?

 「美しい音を出そう」と思うことが最も大切です。
 簡単に出てしまう音ではなく、「美しい音」を出したいと思って音を出す!
 ピアノは正直です。そういう気持ちで弾くとどんどん音が変わってきます。
 美しい音で弾ければ、気分もよくなります。

 

 私は貪欲に「まだもっと美しい音は出ないか」と、常に理想を下げず、限界を決めず、憧れを持って音創りをしていきたいと思っています。音楽と言う芸術にかかわる仕事をしている以上、極め続け、追求し、磨き続けたいと思います。

 指導者としては、生徒さんが美しい音が出せた時は共に感動してあげ、更に美しさを求め続けて欲しいと日々伝え続けたいと思います。

エピソード

 思春期になると、多くの子供たちが毎日、忙しい朝の時間、鏡を見て髪の手入れをするようになります。
 それと同じくらい、音にもこだわって欲しいですね!
 ちょっとした事で、必ず美しくなるのに。

 一度「なるほど、きれいな音が自分にも出せた!」と実感し、音作りに興味が出てきた人は、毎日鏡を見て美しくなるための努力をするように、自分の音を磨く事が楽しくなります。

 鏡で思い出しました。
 前回の「気分は音に出る」にも関わるエピソードです。

 中国人の子供によるすばらしい演奏を聴いた時、顔の表情の変化に驚いた事があります。すごくうれしそうな顔をした瞬間に明るい音で明るい表現をし、顔を歪めたとたん、とても悲しい音が出ます。顔の変化以上に表現豊かな音が出たことに脱帽でした。

 あまり表情の出ない子をレッスンするとき、譜面台に鏡を置いて自分の顔を見させた事があります。
 自分の顔をみる事が恥ずかしくて、思わず笑ってしまいます。すると心も解き放たれ、明るい音に変わりました。
 反対に、すごく悲しい音を表現しようとする時、ニコニコはしないと思います。
 悲しい気分になって、悲しい顔をすると自然に悲しい音になります。

 音は、すぐ変わります。こんな音を出したいと言う理想を下げず、いろいろな方法で、いろいろな音を出すことを試してみてはいかがでしょうか?