ピティナ調査・研究

045.伝えたいことを心から

100のレッスンポイント

前回お話した「感動の引き出し」は増えましたか?
「感動」を音にして伝えたいですね。
今回は「表現のポイント」のまとめになります。

今までに「考えを加え音にする(第36回)」、「想いがあれば伝わる(第31回)」などと書いてきました。楽譜から作曲家の想いを推理し、そこに自分の考えや気持ちを加え、伝えたいことを心から伝える。

伝えたいことは、「好きな部分」「ステキだと思う部分」「涙が出てくるほど悲しげな部分」などです。そこが、「感動を呼ぶほど」の部分であるならなおさら、表現に力を注ぎましょう。

「ここってこんな感じかな」と思う時、その「感じ」とは、今までの人生経験の中でのワンシーンであったりすると思います。色々な感動の経験を増やし、それを音に乗せて、人へと伝えて欲しいです。

「感じる」ことは、実際にはとても小さな単位から始められると思います。
まずは言葉では「単語」にあたる「モチーフ」を大切に、よく聴くようにします。
一つの曲の中では、同じモチーフが何度も出てきます。それらを大切に扱いつつ、音にしていくことは、曲全体の音楽性をレベルアップさせる第一歩です。
何度もでてくるモチーフは、作曲家の言いたかったことだと思います。それは演奏者にとっても「伝えたいこと」にして欲しいです。

モチーフにはもちろんリズムも加わります。そして一つの言葉になります。
曲例をだしてみましょう。

「ソナチネアルバム」の第7番1楽章(クレメンティー作曲Op.36-1)の冒頭は「ドーミド」 と始まりますが、このモチーフは、場所を変えて(ミーソミ)になったり、(ミードミ)と反行形になったり、短調(シーレシ)(ドーミ♭ド)で現れるなどします。なんと、このモチーフは38小節のうち10小節に出てきます。その変化に気づけば「こんな風に変わったよ!」などと伝えたくなるのではないでしょうか。

この曲には、他にもステキなモチーフがたくさんあります。20小節目の、「ソソソソソソソソ」なんと8回の「ソ」。文字にしてみると強烈な「ソ」の大群!しかも次の小節まで続きますから16回の「ソ」が並びます。この面白さを伝えたいですよね。しかも、まだ手が小さくてオクターブが届かない子供にとっては、まさに「必死!」に演奏しなければならないところ。このような緊張感の高い部分の後には、必ず「安堵」「安心」するところが現れます。それが再現部で現れる「ドーミド」です。ここにたどり着くと、平和で美しい感じがすると思いませんか?
このあたりが、この曲の表現のポイントで、最も伝えたいところとなります。

曲のどの部分も大切に扱うのはもちろんですが、「ここは!」と思うところをはっきりと、意思を持って伝えることで、音楽としてのまとまりが良くなり、より印象に残る演奏になると思います。

上で説明したような曲の造りから導き出される盛り上がりのポイントだけではなく、ベースラインを強調したり、普段目立たない対旋律を浮き立たせるように鳴らすと、耳になじんだ曲がとても新鮮に聞こえることがあります。

漠然と「感じの良いメロディーだなあ」などと思っている時も、モチーフの単位で考えると、「レソシレ」と、「音が急に上行していくところが、かっこいい!」とか、「ファ♯ミソファ♯ら」と、階段状に少しずつ上がっていくところの「微妙な感じがすき」などと、ちょっとしたところがステキに感じられませんか?

そのモチーフが積み重なり、まとまった文章=フレーズとなったとき、強い思いを込めた演奏が出来るようになるのではないかと思います。

表現のポイントを一言でいえば「伝えたいことを心から!」でしょう。意思を持った演奏こそが人に伝わり、「感動」を呼ぶのかも知れませんね。

 次回から「表現のポイント」などを楽譜から読み取るための「読譜のポイント」を綴っていきたいと思います。

エピソード

今年はショパンコンクールが開催されますね。
はじめて、ショパンコンクールを聴きに行った10年前、多くのエチュードを聴きました。聴きなれたエチュードが、なんと・・・
楽譜を見直したくなる演奏に何度も出会いました。
同じ楽譜の中のとらえる所が違う。考え付かないような対旋律が浮き出ています。
それは、ショパンの意図していたことではないかもしれません。ですがきっと、ショパンも感心したかも知れないと思わせる、斬新な面白さが加わった演奏でした。

ただ、「あまりに速いのでは?」と思うようなスピードが気になるところはありましたが、そんな中にも、強烈に意図が伝わってくる演奏表現がプラスされていました。
高校生がバリバリとショパンエチュードを弾く今日。願わくば、超スピードを目指すのではなく、一音一音に魂の入った、興味のそそられる演奏を望みたいです。

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