020.最小の労力で、最高の効果が得られる練習
100のピアノレッスンのポイントとして、初めに取り上げた「テクニック」。
後に取り上げる指導の三本柱、「読譜」「テクニック」「音楽性」のうちの一つでした。
読譜が速く音楽的なセンスもあり、こう弾きたいという気持ちがあっても「その技術がないために思うように弾けない」ということのないように、長い月日をかけてテクニックを高めていく事が必要です。
いろいろな基本的な項目を挙げてきましたが、それらを常に高めていく意識が大切です。できれば習い始めた日から、指導する側される側双方が注意すべき問題ではないかと思います。
よく「前の教室でめちゃくちゃな奏法を身につけていて、自分の教室に移ってきてから直すのが大変」と、たくさんのレスナーから聞くことがあります。力んだり、手の形ができていなかったり、支えがなかったり。
これらのことは、手が成長過程の子供では、確かになかなか理想には近づかないものです。しかし、「マイナス方向」に進み、体が覚えてしまう悪い癖はなかなか直りません。曲が簡単なうちはなんとか弾けていても、難しい曲は弾けなくなる事が多いです。
何も注意しないと、小さい子は自分の弱い手でも弾ける方法で、弾きます。たとえば、振りながら一音づつたどたどしく。大きな音を出そうとするときは、指先の面を大きくし、ぺたぺたの指先で弾いてしまいます。これらは、ちょうど初めてひらがなが読めるようになった子が、「き、よ、う、は、よ、い、て、ん、き」といった調子で発音するようなものです。
そんな時、指導者の接し方が大切です。何も言わないままだと、子供たちは楽な方法で弾き続け、それが当たり前になります。かといって「違う、違う」と言い続けると、ピアノが嫌になってしまうかもしれません。無頓着にならないように、常に、よい方向へ導けるよう、一人一人のペースに合わせて、基本を伝え続ける。と言うことでしょうか。
さて、「最小の労力」とは、間違えた奏法で弾かないということです。
技術の身についていない生徒に曲を渡す場合は、あらかじめよい弾き方を教え、それを練習させるほうが、効率が良いと思います。明らかに弾きやすい奏法があるのにそれを伝えなかった場合、次回のレッスンまでに、早くもマイナス方向へ進む事が多いからです。
練習曲の必要性も感じます。たとえば、チェルニー30番。この曲集では、1つの曲につき、基本的な奏法がだいたい1つ出てきます。その曲で必要な弾き方を、予習でほんの少し方向性を示してあげてから、練習してきてもらいます。これでとても効果が上がります。
その前段階としては、「010」のテクニック一覧表で示したように、バスティンメソードの短い課題を使って、チェルニー30番で必要とされるのと同じテクニックを、導入・基礎段階から学ばせるようにしています。
なおバスティンメソードでは、全調への移調を初期段階から取り入れますから、4小節の基本テクニック課題は、12倍、48小節の課題となります。
48小節の課題は、子供にとっては「長くて嫌だな」と思われてしまうものですが、この課題は「見た目は4小節」。ですから「心の負担も4小節」ということになるようです。これこそ「最小の労力で、最高の効果!」と言えるのではないでしょうか。
指がしっかりしてくるのは、小学3、4年生あたりです。この頃によい弾き方が身に付き、繰り返す量が増え、テクニックが確立していくのだと思います。
「最小の労力で最高の効果」を上げるには、指導者に「今、生徒に不足しているもの」を見極める判断力。そして長い目で育てようとする愛情が必要です。 また、時には「すごく良くなったよ!」と、言葉に出して喜んであげましょう。そんな「最小の」心がけだけで、やる気という「最高の」効果が得られたりもします(笑)。
チェルニー30番は、基礎テクニックが備わっていれば簡単に弾けます。
30曲をどれくらいで弾き終わるか?歴代の記録があり、一応それを目指して意欲を持ってはじめます。今のところ、「2ヶ月3週」という記録が破られていません。
しかし先日、新3年生の子が、楽譜を購入して3日後のレッスンで5曲弾いてきました(1曲しか合格しませんでしたが)。その1週間後には9番まで進んでいました。このペースなら記録を敗れるでしょうか!!?
また最近、とても非音楽的な弾き方の年長さんが入ってきました。乱暴にたたく音の出し方をしていて、「毎日これを聞いていたのかな?」と思うと悲しくなりました。「1ヶ月で直しましょう」といってレッスンを始めたところ、2回目でたたくのをやめ、きれいな音が出ているかどうか注意を払うようになりました。ほんの少しのポイントを知って弾くというだけのことで、世界が一変するほどの変化が起きる場合があります。