042.「ここが好き!」を見つけよう
前回の記事で書きましたように、楽譜から表現の鍵を見つけ出す事はとても楽しいことです。また、それとは別に、自分がこの曲のどこが好きかを考えてみるのも表現のポイントになると思います。
作曲者が「ここは」と、盛り上げているところ以外にも、自分の感性で「このメロディーが好き!」という部分が、あるかもしれません。「あるかも?」というのは、音をピアノで弾くことばかりに気が回って、「間違っていないか」という意識ばかりが先行し、何も考えずに音を出していることが多いと思われるからです。
今弾いている曲で、素直な気持ちで「好きなメロディー」を探してみましょう。
これを、レッスンで実行しているとき、意外な答えが帰ってくることが多いのです。私の方では、実は密かに「ここをステキに感じて弾いて欲しい」と思っているところがあります。「きっと、よく考えさせたら同じところに気づいてくれるに違いない」と思って質問するのですが、これがなかなか一致しません。
こちらは、前回の記事で「鍵」と説明したような「ここぞ!」と言うところがわかっています。そこを「好きなところ」として答えてほしいと期待するわけですが、それは理屈で考えて「好きなところ」と思っているのかも知れません。子供たちは、素直に「好きだ」と感じるメロディーを答えてくれます。
もちろんそれで良いのです。
「ふーん?!」と驚いてしまうこともあるのですが、その好きなメロディーを「ステキなメロディーでしょう!」と、人に伝わるよう大切に、良い音で表情を持って弾こう!と、意識をさせて弾かせます。
連載の「音創り」の回で、「1音でも良いから、こころをこめた、極上の音を創ってきて」(第24回)と言うことを述べました。同じように、まず好きなフレーズや、モチーフでも良いと思います。「入れ込む!」気持ちを持つと、表情がとてもでてくると思います。
しかし、私の意図しているところも「入れ込んで」弾いて欲しいので...
「先生の好きなところはね・・・」と、教えてあげます!
「あなたの好きなところと、先生の好きなところ両方ステキに弾いてきてね!」などといって、「鍵」となる部分を伝えます。
「ここって、すごくかわいいよね!」とか「ここさびしくならない?」とか、さりげなく曲について語っていることを、子供たちは意外に聞いているようで、そんな話をしているうちに、だんだん表現が上手くなっていく気がします。
指導者の方にとって、時間がかかることではありません(弾きながらでも言う事は可能ですし)ので、言葉にして、自分のステキだと感じるところを伝えてあげると良いと思います。
ご父兄の方は、是非、音の間違いや強弱だけを指摘するのでなく、「ここ、お母さん好きだから、もう一回弾いて!」とか「ウキウキするわね、この曲!」とかの言葉がけをしてあげてください。そのような言葉は、必ず子供たちの心に残ると思います。
そして、弾いている人たちは、どうせ弾くなら、「好き!」「ステキ!」と思って、楽しんで弾くと良いと思います。何となく大雑把にではなく「ここが好き!」という部分を探し、それを大切に表現していくとステキな演奏に近づくと思います!
エピソード1
ショパンのマズルカを初めて弾く2年生の子に、例のごとく「Aちゃんの好きなところ私にわかるように弾いてきて! 当てるから」と宿題にしました。
次の週、意気揚々とやってきたAちゃんの演奏は、狙い通り、とても豊かに表情が加わっていました。全体的にとても良くなっていたこともあって、Aちゃんが「好き」だという2箇所のうち、1箇所しか当てることができませんでした。Aちゃんは私が外したことも、クイズのようで、ちょっと嬉しかったみたいです。
私は「先生は聴く耳なかったね」と言いながらも、自分の考えていたところ以外も格段に良くなった、Aちゃんの大幅なレベルアップに「大満足!」でした。
エピソード2
うちの教室には、とても感性豊かな男の子がいます。
小さい頃から、音楽大好きでした。感じ過ぎ、感性の豊かな子に多いように、体まで、動きます。私は決して、体を動かすことを奨励していません。むしろ、本心では大きな動きは大嫌いなのですが、「体を動かすな!」と強制してしまうと、なぜか、とてもつまらない音楽になったりします。
その男の子は成長する過程で、大きな体の動きが実は無駄で、ミスにつながり音も聴けていないということに気づき、かなり普通になりました。
しかしふと、顔を見ると...
七変化しているのです。
各モチーフごとに変わる顔! すばらしい演奏家にもいらっしゃいますが、あまりにおかしくて、ちょっと注意しましたら、「ボクは体を動かさず、顔も動かさずにはピアノは弾けません!」ときっぱり即答されました。
以前に表情のない子に、鏡を見て弾いたら!と言うことを言ったエピソードを書きましたが、実にその逆です。
彼は、どんな曲も好きなところだらけです(このことの是非については次回連載で取り扱います)。
しかし、その演奏は聴いていて誰よりも面白く、「弾きたい気持ち」が伝わってきます。