ピティナ調査・研究

024.音は「一音」で変わる!

100のレッスンポイント

小さい頃から「ここがステキ!」と感じられる子がいます。

 ある子は、ホールで自分が出す音に聴きほれて、コンクール本番でうっとりして目をつぶってしまったことがあります(その結果、ふっと演奏が止まって私たちの心臓を凍らせました。すばらしい審査員のおかげで「9点」をもらいましたが)。

 初めて自分の曲にペダルを踏んでもらったのを聴いて「泣きそう!」と言った子。
 初めて、1つ年上のお姉さんとデュオを合わせてもらって、楽しくて、感動して「ぶるぶる」したという子。

 そんな豊かな感性を、そのままピアノに表現できれば、と思います。
きっと、習い始めた時から、ピアノの音の美しさにあこがれて、素直に楽しんで弾いているのでしょう。素直に感じたまま弾くためには、足りない技術を教え、曲がより良くなるように様々な指摘をしないと、もちろん「感性がある=弾ける」という事にはなりません。 しかし、「技術」や、「指摘」を行うだけでは、「感性」が育つことにはならない場合が多いです。

 何もいわなくても、その音楽をすばらしく感じる感性の豊かな子はいます。特に小さい子は、ピアノの表現に結びついていない場合もあるものの、ほぼ全員、音を「感じて」います。ところが学年が上がると、何も感じず、ただ指が動くようになってしまうことも多いのです。無気力な様子をみると「『気持ち』を忘れて生きているの?」と悲しく思うことすらあります。

 そんな子でも、何かのきっかけで、自分が「今の一瞬にしかない。消えてしまうけれどもすごく美しくステキな音を生み出している」と感じることができると、だんだんに変わってくるはずです。

 

 音作りのレッスンで、「一音で良いから、心を込めた、極上の音を作ってきて!」と言うことがあります。コンクールの指導をしている時なら「この1音だけは、だれにも負けない音だと自信がもてる音を作ってきて!」という場合もあります。そして、次のレッスンでは、その場所を私が当てることにしています。
 そうすると、どうなるでしょう?

 1音にこだわって,良い音になったことが自覚されると、他の音にも良い影響がでます。「良い」と思った体験は繰り返したくなるので、曲の他の部分でも試すようになります。そうして、次の週には、「気持ち」の入ったステキな音が増えていて、どこの1音にこだわったのかわからなくなるのです。 

たった1音をきっかけにして、音に対する感覚が鋭くなり、良い音を心が求めるようになるなんて、すばらしいことですよね!

エピソード

私の夫は彫刻家です。まさに無から物を創り出す仕事です。

ある時、彫刻に使った黒い石がありました。その石は、宝石のように、ブルーや、紺や銀の雲母が入っていて、とても美しい石でしたので、残った石でテーブルを作りました。

 生徒たちに、そのテーブルの裏を覗かせました。

裏から見ると、その辺に転がっているただの石です!

「皆は、今はこの裏側です。磨いて、磨いて、人間もピアノも表のように、光り輝きなさい!磨かれない原石は、誰にも価値を気づかれず、ただの石のままですよ。」と言いました。

一音から、磨いて、磨いて、良い音を楽しんで創っていって欲しいです。