ピティナ調査・研究

051.音程から探ろう!

100のレッスンポイント

前回も述べたように、読譜の鍵は「ふつうでないところ」にあります。
たとえば、曲の中で10%しかない4度以上の音程が現れる部分。
中でも、特別な響きをもつ音程があります。

まず、増4度・減5度。この音程は、3つの全音の積み重ねでできています。全音3つ分なので三全音と言います。そして、この三全音は昔『悪魔の音程』と呼ばれていたそうです。なんともぴったりのネーミング!!
たとえば、ファとシを同時に弾いてみて下さい。なんとも不気味な感じがしませんか?あまりそのように感じられなかったら、その音程を保ったまま、半音ずつ下げてみて下さい(不気味さが増すと思います)。

皆さんは初めてソナチネアルバムを弾く時、7番からはじめませんでしたか?
その曲の展開部の開始音(まさにこの「ファ、シ」!)。
ト長調で明るく終わり、次の瞬間にこの響きとなり、なんとも不吉な予感がします。
まさに「思わぬことが起こったところ」です。

譜例1

子供たちにこの曲のイメージについて作文させると、ここで迷子になったり、おなかが痛くなるなどの事件がおきます。

この音程を弾く瞬間に、そのようなイメージを感じられていると、他の人にも演奏で伝えられます。この音程の持つ雰囲気を意識できていないと、あまり変化は聴こえないでしょう。

この曲ではその後、右手に8回連続オクターブが現れ、メロディーに当たる左手は、7度、5度、6度、4度、という激しい動きが続いて想いの強さを感じさせます。両手に広い音程が現れるこの部分が、曲のクライマックスでしょう。激しくかっこよく!

このようなことを知らなくても曲は弾けるかもしれませんが、「不気味な感じの音程」や、「広い音程」にあらわれる、雰囲気の違いを知って弾くのと、何となく弾くのでは大きな違いになります。

ところで、バッハの時代には「修辞学」という学問がありました(今は衰退しています)。当時、修辞学は音楽とも関係が深かったのですが、その「音楽の修辞学」によれば、音程には一定の意味がありました。

例えば三全音はTritonus(トリトヌス)と呼ばれ、死、罪、嘆きを意味するそうです。他にもいくつかご紹介しましょう。

Parrhesia(パレシア)は減、増音程。意味は「破壊、動揺、反抗、罪」
Saltus duriusculus(サルトゥス デュリウスクルス)は6、7度以上または減・増音程の跳躍。意味は「特別の苦しみ、罪」
Passus duriusculus(パッスス デュリウスクルス)は半音階。意味は「苦難の歩み」

主に歌詞に合わせて、それを意味する音程を使っていたということですが、その後器楽にも応用されました。ピアノが流行する19世紀には音楽の修辞学は衰退していましたが、その音程の持つニュアンスはピアノ曲でも同じように感じられることがあります。

特に半音階は、曲の中で意味ありげに出てくる事がとても多いと思います。強く感情が表現されていたり、転調のきっかけとなっていたり、重要な意味を持つことが多いです。半音階も注意深く見つけて、そのムードを大切に表現できるとよいですね。

メロディーの中で、急に7度も上がったりすると変化に富んだ感じになりますね。
また、重音で7度を弾くときの響きも、とても強烈だと思います。これは属七の和音の一部である事が多いのですが、ドミナントの性格を現し、しっかり弾きトニックに解決する感覚を身につけるのはとても大事ですので、特に7度は目ざとく見つけさせています。

音程から感じられる「作曲者の言いたいこと」を感じ取り、演奏に生かしたいものです。

エピソード

ある小3の生徒のレッスンでのこと。 半音階の存在に気付かずに弾いているようでしたので、「この部分なんだっけ?」と聞いてみたところ、「半音」という言葉すらも忘れていてガッカリ。
でもそのあと、他の曲でも半音階を探すようにしていたら、どの曲にも(ラジリティーやバロック小品、ショパンのワルツなど)半音階が含まれているのでびっくり。
その日のレッスンは半音階のムードに浸りきりました。

調査・研究へのご支援