050.「ふつうでないところ」を楽譜から見つけよう!
読譜がすらすらできるようになると、作曲家の色々な想いを読み取る余裕が生まれて欲しいですね。
クラシックの作曲家の多くは過去の人ですが、残された楽譜から、「こういう風に思っていたのかな?」と想像し、対話する事はとても楽しいことです。(「バッハは推理小説!」というタイトルでセミナーをしていますが、想像が楽しい点ではどの曲も同じだと思っています)
表現のポイント41でも述べたように、読み取る鍵は「ふつうではないところ」だと思います。「ステキ!」と感じるところは、作った人の工夫が目立って見られる事が多いです。
その曲の中で「ここにしかない」リズムや音(音型、臨時記号)、和音は、何かを言いたいところであったり、強調しているところだったりします。その部分を大切に、音を選んで表現していくとステキな演奏になります。
「メロディーの90%が3度までの音程で出来ている」なら、残りの10%は、「ふつう」ではありません。中でも、たくさん上に跳躍しているところは、とても想いがあり、表情たっぷり歌って欲しいです。
たとえば、「ソファミファソ」と「ソファミドソ」(譜例1)。
後者のほうは、「ミドのところ」で6度上がっていて、平坦でない分表情豊かです。そんなちょっとした違いに気を使えるようになると良いですね。
41でも述べましたが、臨時記号の付いた音も作曲家が工夫した部分であることが多く、「おしゃれ」に感じたりします。(41では「おもしろい音」=「不思議」「不気味」な音と感じる例を紹介しました)
生徒たちに「ソファソミド」と「ソファ#ソミド」(譜例2)どちらが好き?と聞くと、間違いなく後者が好きだと答えます。
習い始めの子は「黒い鍵盤は弾きにくくて、嫌!」と思いがちですが、時々出てくる#などの臨時記号は、大事な宝石のようなものと考えれば楽しくなります。宝石を捜してステキに弾きましょう!
また、臨時記号は違う調へ変化していく(転調)合図となっている場合もあります。見逃せません。転調しているところは、お隣のうちに遊びに行ったときのように、ムードが変わっているように感じられると良いですね。
どんな曲にも、繰り返し使われるリズムがあります。
その中で「急にここだけ長い音符が出てきている」とか、逆に「この小節だけ細かいリズムになっている」といった部分は、リズムの上で「ふつうでないところ」です。作曲家が何かを伝えたいとか、重要な部分かもしれません。
バッハのインベンション第1番で、32部音符のあるところは1箇所(6小節目)です。曲の盛り上がるところだと思います。また付点8部音符と16分音符の組み合わせによるリズム(タッカ)は、3箇所だけです。これらはそれぞれ、カデンツに絡んでおり、やはり強調される部分でしょう。
和音に着目すると、例えば「借用和音」があります。借用和音にはその調にない和音ですから、臨時記号が付いていると思います。この「借りてきた和音」が鳴る部分も、とてもステキな響きで、魅力的なはずです。
その曲の中で、「この響きはここしかない」というような音の重なりは逃さずに感じてください。ほんの少しだけ前と違う響きになるところや、急に暗い和音に変わる部分なども、敏感に感じ取るとステキな演奏につながります。
まずは、いろいろな「ふつうでないところ」を探して、そこを大切に考え、感じながら弾いてみてください。ステキなニュアンスが読み取れ、自分らしく演奏できると楽しいと思います。