第13回 アンダンテと変奏曲 Hob.XVII/6 ヘ短調
1793年、ハイドンが61歳の時に作曲された大規模な変奏曲です。自筆譜には表紙に「ソナタ」と記されていますが、1799年の初版には「クラヴサンあるいはピアノ=フォルテのための変奏曲」と書かれています。静かに始まるヘ短調の主題Aと、美しく愛らしいヘ長調の主題Bが交互に2回演奏され、もう一度主題Aが戻った後は激しいコーダが続き、最後は足音が遠くへ消えていくようなピアニッシモで終わります。
ハイドンのクラヴィーア曲の中でヘ短調を使って書かれているものはこの曲のみで、曲からにじむ静かな深い悲しみや、昔を思い出すような穏やかで自由なメロディー、そして突然襲ってくる感情の昂りを表現しているようなフレーズは、ハイドンが作曲する曲にしては珍しく、ロマン派以降の後世でもよく聴かれてきました。この曲はモーツァルトの死を悼んで書かれたという説がありますが、私が初めてこの曲と出会ったときも、何となく曲からそのような印象を受けました。この曲は今まで何回も弾く機会がありましたが、弾くと胸の中には昔のことが静かに思い描かれ、断じて昔には戻れないある種の儚さと、虚無感でいっぱいになります。
「第13回 ハイドンの性格 その2」
(前回の続き)─ 合理的な家計を考える人だった
自分がお金に困った時はお金を得るためにしゃにむに働きますが、いったんまとまった額を手にすると、それを他人にも分けてやりたいという気持ちになり、しばしば召使いたちを呼び集め、お金を与えていたそうです。
─ 謙虚で、恩義に厚い人だった
少年時代から、自分に示された親切に対してはきちんとお返しをし、たくさんの縁者たちの事も忘れなかったということです。
─ ほかの音芸術家たちの悪口を言ったことは一度もなかった
─ 若い頃は恋愛に対して極めて感じやすかった。老齢になっても女性に対しては大変に愛想がよかった