連載:第16回 いつまでも、練習曲ばかりと思うなよ~バレエ音楽(2)
第15回の記事でご紹介したとおり、ブルグミュラーはあの「25の練習曲」ばかりでなく、当時のパリで華やかだったバレエの世界でも、傑作を残していることがわかりました。1841年、有名なアダン作曲のバレエ「ジゼル」中に、ひそかに、しかし美しい楽曲を提供したブルグミュラー。その2年後の1843年7月17日、今度は全編ブルグミュラーの作曲によるバレエがパリで初演されたのです!それが二幕の幻想的なバレエ「ラ・ペリ」でした。
ブルグミュラーのバレエ音楽?聴いてみたいじゃありませんか。「25の練習曲」でピアノを習った人、そして今この練習曲を稽古している方なら、なおさらのことでしょう。しかし残念なことに、この作品が現在上演されることはほとんどありません。運が良ければ古いレコードLP盤が、インターネット上のオークションで入手できます(私はこの方法で手に入れました)。CDでは、DECCAの「バレエの祭典」という10枚組の中にもおさめられています。ただし、10枚組を持つのは、ちょっと勇気が必要。
そこで、下記のサイトをご紹介します。ここでは「ラ・ペリ」の序曲の音源が載せられています。あの"練習曲作曲家"が作り出すバレエの世界を垣間見ることができるでしょう。「ラ・ペリ」のスコア表紙とおぼしき画像や、バレエの物語の挿絵も見ることができます。
http://www.burgmueller.com/bruder_e.html
(弟ノルベルト・ブルグミュラーの研究サイト「NORBERT BURGMULLER」より、お兄ちゃんフレデリックを紹介したページです。)
ページ中程にある「 F r i e d r i c h B u r g m ul l e r : " L a P er i " ( E x c e r p t )」をクリックすると、少しざらついた音響ですが、曲想をきちんと捉えることができます。
どうですか?流麗な旋律線、曲調転換の巧みさ、そして安定したオーケストレーションが聴かれ、一流作曲家ブルグミュラーの腕前を伺うことができるかと思います。もともとドイツで音楽監督の地位にあった父の教育を受けているだけに、本領を発揮すると、底力を秘めた作曲家だということがわかります。
バレエの物語の舞台はアラビア。宮殿のハレムに舞い降りた東洋の妖精ペリが、主人アクメと恋に落ちる。彼女は人間レイラの姿に変身し、アクメの愛を試そうとするが、彼はその化身に心奪われるあまり、ペリを拒絶する・・・。
異国情緒にあふれた愛の物語「ラ・ペリ」は、売れっ子台本作家ゴーティエが本を書き、パリ・オペラ座プリマバレリーナのカルロッタ・グリジが踊るということもあって、当時の大ヒット作品となりました。最初はバレエ2本立て(!)の一つとして上演されていましたが、すぐにパリを離れてロンドン、モスクワ、ブリュッセル、そしてニューヨークなど、各地で上演がなされたのです。
「ラ・ペリ」の人気ぶりを知ることのできる、もう一つの見方があります。それは、このブルグミュラーの音楽が、別の作曲家の手によってアレンジされているということです。
その一つが、ブルグミュラーと同時代の作曲家アンリ・エルツ(1803-1888)による作品です。
「ラ・ペリ」の人気ぶりを知ることのできる、もう一つの見方があります。それは、このブルグミュラーの音楽が、別の作曲家の手によってアレンジされているということです。
その一つが、ブルグミュラーと同時代の作曲家アンリ・エルツ(1803-1888)による作品です。
標題にあるとおり、この作品は変奏曲です。音源の1分20秒から2分までの部分が、ブルグミュラーの作曲した「アラブのテーマ」となっています。これはバレエの第二幕で現れます。このテーマに、エルツは序奏と4つの変奏、そしてフィナーレをつけたのです。
エルツは、ピアノ演奏の高い技術を誇るヴィルトゥオーゾとしても活躍していた人物です。この作品も、高度な演奏テクニックを必要とします。現在では楽譜の流通があまりなく、演奏される機会もほとんどない珍しい作品となってしまいました。しかし、堂々たる作風と華やかな曲想は、今日のわたしたちに訴えかけるに十分な音楽です。
また、このエルツ作品の他にも「ラ・ペリ」を題材として作曲されたピアノ曲が、数々存在しています。これらは、今となっては無名の作曲家や、ブルグミュラー自身によってアレンジされたもので、ソロばかりでなく連弾用にも編曲されています。下記にご紹介しているのはその一部で、イギリスの国立図書館である大英図書館に所蔵されている、19世紀当時の楽譜です。
Louis Brouillon Lacombe 《Grand duo pour le piano a quatre mains sur La Peri de Fr. Burgmuller Op. 21》
Philippe Musard 《The Peri Quadrilles, for the piano-forte. Based on the ballet by J.F. F. Burgmuller》
Jean Baptiste Joseph Tolbecque 《Deux quadrilles, sur de motifs de La Peri, musique de Fr. Burgmuller. Pour le piano a 2 mains》
「ラ・ペリ」のLP:ボニング指揮、ロンドン交響楽団 DECCA SXL 6407
「ラ・ペリ」の台本が読める書籍:平林正司「十九世紀フランス・バレエの台本--パリ・オペラ座」2000年、慶應義塾大学出版会。
アンリ・エルツ作品使用楽譜: Selected works/ Henri Herz(Piano music of the Parisian virtuosos 1810-1860, vol.4)/ Kallberg, Jeffrey ed. New York; Garland Publishing, 1993.(東京藝術大学所蔵)
ぶるぐ協会では、来る2009年3月8日に初のコンサートを開催します。 「25練習曲」の2台ピアノ版(アルフレッド・バトラー編曲)、および上述のエルツ作品や「18の練習曲」、そして日本版のサロン音楽ともいえるピアノ曲の数々をお楽しみ下さい。
ところ :マルシャリンホール(飯野病院7F)
(京王線調布駅東口すぐ)
入場 :大人2000円、小学生以下1000円
演奏 :友清祐子・須藤英子
お話 :飯田有抄(ぶるぐ協会)
企画構成 :前島美保(ぶるぐ協会)
チラシイメージ 表|裏
burgmuller25@gmail.com (担当:前島)
お待ちしています♪