ピティナ調査・研究

連載:第10回 データからみるブルグミュラー

みんなのブルグミュラー

このコーナーの連載も今週で10回目を迎えました!記念すべき今回は、PTNAが所有する独自のブルグミュラー関係データを見てみることにしましょう!さて、どんな発見ができるでしょうか?


「25練習曲」の人気曲

コーナーの左側に設けた「♪アンケート 一番好きな曲」。みなさんはもう投票されましたか?
日に日に票を増していくなか、追いつき追い越され、まるでダービーのように競っている曲もあります。やはり根強い人気は「貴婦人の乗馬」。5月中旬には「バラード」に抜かれた瞬間もありましたが、やはりここに来てダントツです。赤い文字の「投票結果だけ見る」を見てみてくださいね。

ところで、ピティナ・ピアノステップでは、どの作品が人気なのでしょうか。お客さんや審査をしてくださる先生の前で、舞台上で演奏する。この特殊な状況で選ばれる人気曲とは?下に過去3年間のランキングを出してみました!

なんと3年連続1位は「アラベスク」。そして上位5位までは順位は入れ替わるものの同じ曲ですね。6位に毎年「スティリアンヌ」がつけているのも特徴的です。

ランキング

「アラベスク」はアップテンポで「かっこよさ」が人気。いわゆる「黄色いバイエル」(全音楽譜出版「子供のバイエル 下巻」)の後ろ部分に掲載されていることからも、「なじみ深い」曲なのかもしれません。中間部では左手が動く「見せ場」もありますしね。私の知り合いの作曲家には「僕はこのアラベスクの中間部分で小学5年生のころ初めて『対位法』というものを意識した」なんておっしゃる方もいますから、印象深さと構成力の両面から、多くの音楽表現を学べる一曲なのだと思います。

「スティリアンヌ(スティリアの女)」は、25曲中ここから技術的に「後半」色をにおわせる作品。音がどんどん跳躍しますし、ちょっとお洒落な3拍子の表現なんていうのも、なかなかに大変です。そんなところに挑戦しよう!という参加者が多いのかもしれませんね。

ところで、人気度ワースト2作品は、「つばめ」と「なぐさめ」。「なぐさめ」はかわいそうに、2004年にはランクインすらしていません!皆さん・・・「なぐさめ」いい曲ですよ。とくに「別れ(さようなら)」とセットで弾くとね。でも単独で舞台で弾くには、少々地味だと思われる傾向にあるのかもしれませんね。
「つばめ」が選ばれない最大の理由は、やはりその難易度でしょう。右手と左手を激しく交差させる作品。ある先生には「生徒の技術の試金石ともいえる作品」とまで言わしめるこの曲、チャレンジするには多いに価値がありそうですよ!

演奏する年代

ところで、どの作品を選ぶのかは、ピアノ学習暦や年齢にもよるのかもしれません。下のグラフは、ピティナ・ピアノステップでブルグミュラーを選択した年齢層を表しています。少し細かいですが、正確な数字の表も付けておこうと思います。

グラフ
グラフ

グラフ縦軸の「割合」とは、全体の参加者数からブルグミュラーを選択した方の比率です。このグラフで特徴的なのは、一番大きな山が小学5年生にあること。そして、次の小山が大学生にあることです。

「25の練習曲」は、よく「子供のための教材」と考えられがちです。「子供」とひとくちに言っても、皆さんはその年代層をどのあたりと想像されるでしょうか。

昭和49年生まれの元「昭和ピアノ少女」の筆者自身は、小学2年生の発表会で「狩」を弾き、小学校3年生くらいの時もっとも多くのクラスメートがブルグミュラーを弾いていた記憶があります。これは私の記憶であって、正確なデータと照らし合わせることが適切ではありません。しかし、今回のステップ年齢の調査、および指導者へのアンケート調査(これについてはまた別の回でご紹介したいと思います)を通じて、ブルグミュラーを演奏する年齢層は以前よりも上がってきているように感じます。

この連載でもご紹介したとおり、江崎光世先生は小学4年生で与えるとおっしゃっていました。また先生は「これまでのピアノ教育ではブルグミュラーを与える年齢が早過ぎていたと感じています」とお話されていたことも印象的でした。

このことには、ピアノの初等教育のあり方の、暫時的な変化が現れていると見ることもできそうです。「何歳までにはこの曲を弾けなくてはならない」とか「難曲を小さいうちから弾きこなしてこそ」という見方は、ある一つの道筋であることには違いありません。しかし、もしかするとまた別の方法もまた、模索される時代を迎えたのかもしれません。

グラフによると、大学生の年代にもよく演奏されているという特徴も見逃せません。私自身も芸大の副科ピアノのレッスンで「やさしい花」をきちんとやり直した経験があります。大人の世代の中には、ピアノを始めて間もない方はもちろん、もう一度ピアノの世界へ返り咲きたい!という入り口として「25練習曲」があったり、あるいは和声の構造やリズムや旋律線の基礎的なことをもう一度整理したい方が演奏する場合があったり、様々な理由でブルグミュラーを演奏されるでしょう。私の友人の指揮者は、指揮の勉強にも「25練習曲」を使うのだと話してくれました。

大人が選ぶブルグミュラー
ランキング

ところで皆さんは、「大人になってから好きになった」とか「やっとこの年齢になって良さがわかった」なんていう1曲はありませんか?最後に、大人の好きな作品をご紹介しましょう!
2003年に行われたピティナ・ピアノコンペティションでは、課題曲に必ずブルグミュラーを弾くべし!という大人のための「Cカテゴリー」が実施されました。そのときに選ばれた人気曲のランキングは以下のとおり。「なぐさめ」浮上!なんと「アラベスク」は0票!ナンバーワンは「アヴェマリア」!大人には、祈る気持ち、穏やかな曲想を好む傾向があるのかもしれませんね。


さて、今回は数字や表がたくさん出てきました。これらをどう読み込むかは、読み手の方向性によって彩られるものです。ここでは私の読み方を提示してみましたが、みなさんはどんなことをお感じになられるでしょうか?


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