ピティナ調査・研究

連載:第05回 江崎光世先生公開講座

みんなのブルグミュラー

4月24日、スガナミ楽器町田店で開催された公開講座「『ブルグミュラー25の練習曲』を使って生き生きした表現をめざすために」を取材してきました!講師は、ピティナ・コンペティションとステップの課題曲選定、またご自身の門下生から多くの成績優秀者を輩出されている江崎光世先生。先生は、2006年1月音楽之友社より発売された新版「ブルクミュラー25の練習曲」にも協力者として携わっていらっしゃいます。

午前10時半からの講座でしたが、開始前より会場は超満員。70名のピアノの先生たちが熱心なまなざしをもって参加されていました。


ブルグミュラーを弾く年齢層
江崎光世先生

「みなさんはブルグミュラーを何歳くらいで弾きましたか?」このような質問で公開講座は始まりました。この日参加されているピアノの先生方は、お見受けするに30代から40代が中心です。手を挙げた先生たちが最も多かったのは小学校3?4年生という答え。そして、「素直」よりも「アラベスク」、「なぐさめ」よりも「貴婦人の乗馬」が「印象にのこった曲」という方が大半でした。

このページをご覧のみなさんは、何歳くらいでしたでしょうか。下図は、2005年度ピティナ・ステップ参加者で、課題曲にブルグミュラー作品を選択した学年・人数のデータです。この表からみると、もっともブルグミュラーを弾いた人数が多いのは、小学校4,5,6年生です。小5では、3099人中801人、じつに4人に1人がブルグミュラーを課題曲に選んでいることがわかります。現代のレッスンの現場では、このあたりの層が厚いのですね。

江崎光世先生
「25の練習曲」は小学校4年生から

江崎先生がレッスンのなかで子供にブルグミュラーを与えるのは、小学校4年生以上になってからとのこと。これには少し驚きました。優秀な生徒さんを多く育てていらっしゃる江崎先生ならば、ブルグミュラーをもっと小さいうちから始めているのでは、という私の勝手なイメージがあったのです。しかし一方で、先生のそのようなスタンスを聞いたとき「なるほど」と思いました。私自身、大人になってから今一度この曲集を見直したとき、ここで求められていることをきちんと吸収するのは、本当に大変なことだと感じたからです。

では、江崎先生のレッスンでは、ブルグミュラーに入るまでに何を最優先に指導されておられるかというと、それは徹底した「音楽の文法」「楽典的なこと」を子供の身体(からだ)にしみ込ませること。バスティンの教材や、先生ご考案のゲームなどを利用して、コードネーム、スケール、和声進行、それらを完全に覚えさせてしまうのです。

そうして到達するブルグミュラー。はじめの一曲、「素直」では左手の和音進行がI-IV-Iです。このIVの和音の「機能」とも言える感覚、すなわち「憧れ」「世界の広がり」といった感覚を、この段階で子供はすでに「文法」として知っているというわけです。機能和声の音楽語法に、しっかりと支えられた音楽性。それこそが、その後のピアノ技術や音楽的表現をぐんと伸ばす秘訣なのだ、と改めて納得しました。

新しい方法の導入
会場は満員でした

さらに驚いたのは、先生の、新しいものを取り入れることへの積極的な姿勢です。皆さんは25練習曲にオーケストラ伴奏がつけられるCDがあるのをご存知でしょうか。今回先生がご紹介されたものの一つに「フリューゲル・コンチェルト」というものがあります。オーケストラが膨らませる和声、曲想を盛り上げる対旋律にのって、いかに子供が自然に音楽することができるのか、流れを感覚で理解することができるのか、先生はご自身のレッスン風景をビデオ映像で紹介されました。機械的なものに抵抗感を覚える場合もあるかもしれませんが、子供の創造性や表現力を「言葉でなく体験として」身に付けさせるためのツールを、上手に利用することも大切なのですね。

感性は育てなければ育たない

講座の後半は、感性はいかにして育てることができるのか、という点に話しが及びました。「子供の生活体験からしかひきだすことはできません」。江崎先生はときにレッスン室で繰り広げられる子供同士の喧嘩を見守られるそうです。子供たちにとって、解決方法を自分たちで見出すこと、悲しんだり怒ったりするのがどんな感情なのかをきちんと体験させることの重要性を説かれました。子供の生活体験ひとつひとつがすべて、感性を磨く材料となり、それをうまく引き出して音楽表現へと発展させていく・・・。「わたしたちの仕事は重労働。」そうおっしゃっていたのが非常に印象的でした。

ベースとなるものの大切さ
レーゲンスブルクの街の様子を紹介する筆者

今回の講座をとおして、ピアノ教育の現場で「25の練習曲」をもっとも効果的に生かすためには何が必要なのか、あらためて知ることが出来ました。音楽の文法、そして豊かな感情と感性。ベースとなるこの両輪をしっかりともってこそ、この作品集を十分に楽しみ、また多くのものを得られるのだと思います。「楽しさを本当に知った子は音楽から生涯はなれない。」いそがずに、ゆっくりと味わいたい曲集です。

次回連載では、引き続き江崎光代先生にインタビューを行います。どうぞお楽しみに!


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