ピティナ調査・研究

アジア初!ピアノ指導者団体の国際ネットワーク(IFPS)発足(3)

アジア初!
ピアノ指導者団体の国際ネットワーク(IFPS)発足
~International Federation of Piano Societies (IFPS)
3. 香港リポート!専門学校で行われるジュニア音楽教育

今回の連絡会開催国である香港は、地理的にアジアの中心部に位置しており、どの国からもアクセスしやすい。空港や公共の場所では数年前から無料wifiが完備され、MTR駅など交通要所には世界中の有名ブランドが並ぶ大型ショッピングモールがあり、また世界から優秀な企業人が集まるグローバル都市である。芸術専門教育を行う香港アカデミー・フォー・パフォーミングアーツ(Hong Kong Academy for Performing Arts )からも、国際コンクールで優秀な成績を収めてグローバルに活躍するなど、優れた人材が育っている。

香港アカデミー・フォー・パフォーミングアーツのロビー

今回、ピアノ科主任教授であるガブリエル・クォック先生にもIFPS連絡会にご出席頂き、同アカデミーのジュニアコースについて紹介して頂いた。アカデミーは毎週土曜日ジュニアの生徒に開放され、現在5歳から18歳の生徒が通っている(ピアノ科は90名)。カリキュラムは週2時間で、1時間はミュージシャンシップ、1時間はピアノのグループレッスン(&個人レッスン)、そのほかオーケストラや合唱などが自由選択できる。「ジュニアの教育はとても大事」と語るクォック先生は、ジュニアコース創設当初から関わっているそうで、現在6名の生徒を教えている。

ガブリエル・クォック先生のレッスン室にて

今回、土曜日のレッスンにお邪魔させて頂いた。生徒はジーナ・バックアゥワー国際コンクールのジュニア部門で第4位入賞したMuzi Zhao君(14歳)。クォック先生には5年間習っており、先輩門下生(Kuok Wai Lioさん)を彷彿とさせる、柔らかくしなやかなタッチと良い音質、繊細な音楽性を持っている。
まずハイドンのソナタ第55番XVI/41は細かいアーティキュレーションのつけ方、拍頭とトリルの合わせ方など、基本的な部分を細かく確認しながら。左手の粒と抑揚の揃え方は、クォック先生が(左手で)右手のパートを弾き、両者で合わせながらバランスを見ていく。
メンデルスゾーン『厳格なる変奏曲』op.54は、変奏の特徴と進行の仕方を見るために、テーマ、第1変奏、第2変奏の冒頭部分を抜き出して弾いたり、バス音とソプラノの音量配分に気をつけながら和声進行をしっかり意識させたり(第2変奏)、重音のスタッカートの奏法(第3変奏)、和音とアルペジオで構成される第7変奏は和音のみ取り出して和音進行を見極めてから滑らかなアルペジオを弾かせる(第7変奏)、細かい三連符の指使い(第8変奏)など、各変奏のポイントを何度も繰り返しながら身体に体感させていく。先生も模範演奏をしたり、指の圧を体感させたりしながら、テクニックを耳と身体に刻み込んでいく。

生徒のMuzi君と。

クォック先生いわく「彼は初見と暗譜が早く、自分の音楽性を表現するためのテクニックも備わっていますね。全ての生徒がそうとは限りませんが、順調に成長していると思います。彼はチェロも弾き、ジュニアのオーケストラにも入っています。学校の勉強との兼ね合いが大変ですが頑張っていますね。」
クォック先生ご自身はイギリスに留学していた頃、パイプオルガンを副専攻で履修していたそうだ。このジュニアコース生で将来音楽の道に進むのは5%前後とのことだが、小さい頃に音楽に親しむことがどれだけ良いか、多くの親御さんに理解されているようだ。

なお同アカデミーの本部生は各楽器の専門教育を受けるほか、リベラルアーツ科目として、「西欧文学がパフォーミングアーツに与えた影響」「演奏家の心理学」「演奏家のための科学」「演奏家のためのライフスキル」「都市とアート」「香港の建築」「中国の社会と文化~伝統と近代化」などが履修できる。

アカデミーの正面玄関。

またアカデミーとは別に、香港大学には音楽学科がある。音楽学科科目の履修に際して特に前提条件はないが、一定の条件を満たせば音楽を主専攻とすることもできる(The Music Specialist Scheme)。さすがに英国領だったこともあり、このシステムは英米の大学に近い。(シンガポールやモンゴルなどの大学にも音楽院や音楽学部がある)

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