ピティナ調査・研究

アジア初!ピアノ指導者団体の国際ネットワーク(IFPS)発足(2)

アジア初!
ピアノ指導者団体の国際ネットワーク(IFPS)発足
~International Federation of Piano Societies (IFPS)
2. 各国のピアノ指導者団体の活動&音楽教育とは?

初日は自己紹介に続いて、各団体の代表が活動紹介を行った。まず全日本ピアノ指導者協会(事務局長・加藤哲礼氏より発表)が二大事業であるコンクール、ステップ事業、および指導者育成プログラムなどについて紹介した。特に「ingプログラム」「指導者パスポート」など、指導者の継続的学習プログラムに皆さんが反応していたのが印象的だ。それに続く各国の発表については、下記をご参照頂きたい(発表順・カッコ内は発表者名)。

モンゴル
Prof. Sharavtseren Tserenjigmed/The head of the piano program, Music and Dance College, Ulaanbaatar
国立モンゴル音楽舞踊学校のピアノ科主任Prof.Tserenjigmed

国立モンゴル音楽舞踊学校は1977年に創立。子どもが通える唯一の国立校である。ピアノ学科が最大規模で、弦楽器、管楽器、打楽器、理論などの音楽教育のほか、バレエ、サーカスなど、ほとんどの芸術科目を網羅的に専門教育をしている。生徒数は約900名。6歳以上が入学可能で(ピアノ、弦楽)、他の楽器は10歳以上。ピアノ学科には12名の教授がおり、モスクワ、プラハ、ブルガリア、ドイツ、米国などの大学留学経験がある。
同校は年齢別に3期に分かれ、第I期(6~10歳)ではまずテクニックの確立と音楽性を育てることを重視。教材は『The Russian School of Piano Playing』(ウラディミール・ニコラエフ著、モスクワ音楽院付属音楽学校出版)を使用している。1年次は長調短調のスケール、バッハの小プレリード、チェルニー、ロシアやドイツ作品の小品、2年次はチェルニー40番などから。最終の4年次が終わるころにはバッハのインベンション、アンナ・マグダレーナのためのクラヴィーア小曲集、チャイコフスキー、シューマンの小品などが課題に。第II期のミドルスクールを経て、第III期は高校生対象で1クラス10~20人、曲はほぼ自由選択になる。国際コンクールやマスタークラス、音楽祭に派遣するほか、ロシアなど海外からも著名教授を呼んでマスタークラスなどを行う。8年次が終わると国の試験があり、40分プログラムでバッハの前奏曲とフーガ、モシュコフスキーかショパンのエチュード、ソナタ1曲、ロマン派1曲、協奏曲1曲。第III期を修了すると4年間の特別プログラムへ進学する生徒もいる。4年間で8回の試験があり、最終学年は1時間のプログラムが課されるなど、カリキュラム構成はロシアと似ている。

国際交流の点では、シンガポールや北京音楽院見学(音楽院付属の弦楽楽器工場見学なども)などをしたが、それ以外はあまり機会がなかったので、これを通じてお互いに交流を図っていきたい。参考
また第2回ショパンコンクール(モンゴル)を今冬に開催するので、ぜひ生徒さん方に参加して頂きたい。

フィリピン
Mr. Anthony Y. Say / President, The Piano Teachers' Guild of the Philippines
フィリピン・ピアノ指導者組合会長Mr.Say

フィリピンには音楽学校が多数あり、最大規模はルソン島にあるフィリピン大学付属音楽院、サント・トマス大学付属音楽院である。ヴィサヤ島には数校、ミンダナオ島には3校しかない。

ピアノ指導者ギルド(Piano Teacher’s Guild in Philippines)は1972年に創立されたフィリピン唯一のピアノ協会で、ピアノ指導の質を上げること、フィリピン作曲家の作品普及を目的としている。主な活動はピアノ指導者や生徒のためにセミナーやワークショップ、海外から著名教授を招いてのマスタークラス開催など。1973年からコンクールも毎年開催しており、2013年度のテーマはアンサンブル。公園コンサート(Concert at the park)にもギルド会員の生徒が出演しており、その様子は国営TV放送でも放映される。最大のイベントは1987年から開催しているピアノフェスティバルで、今は毎年300人以上の参加者を得ている。
ギルドで育ったピアニスト”PTGP babies”にはアルベール・ティウ先生(現シンガポール大学付属音楽院ピアノ科教授)などがいる。また積極的に海外留学を推奨したり、欧米・アジアの国際コンクールにも派遣している。2012年にはギルド創立40周年を迎え、コミュニティコンサートや指導者セミナー、また国立TV・ラジオに学生や子供たちが出演した。

現在の問題意識としては、音楽的才能をもつ子が沢山いるのにそれに見合う指導者が十分にいないこと。地方では新しい指導法を取り入れるのをためらう先生方がまだ多い。また政府はピアノや音楽分野にあまり支援しないという現状がある。そこで我々は地方の州にアウトリーチし、指導法紹介や生徒の演奏を通して、首都圏で何が行われているかを知らせている。またクラシック音楽をどのように鑑賞すればいいか、聴衆を増やす努力も続けている。
国際交流に関しては、北京とはすでに交流があった。グローバル化が進む中、このような連絡会を有意義に生かしていきたい。

日本・神戸市
国際音楽協会理事長・趙文乃さん
国際音楽協会理事長・趙文乃さん

神戸にて中国音楽国際コンクールを開催している。中国人作曲家による作品のみを課題としており、ピアノ作品集(第1巻~6巻)も日本で出版した。まだ参加者はそれほど多くはないが、ヨーロッパの音楽と比肩するぐらいに中国作品が世界で知られてほしい。ピアノコンクールはテクニックの修練だけでなく、音楽を通じて世界の平和にも役立つと信じている。

中国・上海
Dr. Tang Zhe / Piano Department of Shanghai Conservatory of Music Shanghai Piano Society
上海音楽院ピアノ科教授のDr. Zhe

上海にもピアノ指導者の団体があり、目的や活動は他国と似ている。自分が主宰しているのは上海国際ピアノフェスティバルで、海外からボリス・ベレゾフスキーなど著名アーティストを招聘している。また数年前にe-competitionを設立。全て中国語で行われるため、参加者はほとんどが世界各国にいる同胞であったが、前回は5,000人の応募者があった。参加者にはビデオクリップを送ってもらい、その映像をTwitterで配信して審査をするという仕組み。聴衆投票もある。
また毎年8月初めに2週間のアマチュア音楽試験を行い、20,000人が受験している。 ぜひ皆さんにも上海へ足を運んで頂きたい。

中国・天津
Ms. Jin Kaihua/Vice President, Tianjin Piano Professional Council
天津ピアノ指導者会副会長Ms.Kaihua(手前は天津音楽院ピアノ科教授Dr. Wanqi)

天津芸術文化センターの芸術家グループの長を務めており、中国の文化を海外へ普及する活動をしている。2015年にアマチュア国際ピアノコンクールを開催(年齢制限、国籍不問)し、第一次予選はビデオ、二次予選とファイナルは中国で行う予定。ぜひ皆さんにお越し頂きたい。(※2015年IFPS会議は天津アマチュアコンクール期間前後に開催予定)

インドネシア
Ms. Ang Hwie Lie/Pertemuan Musik Surabaya

PMS(Pertemuan Musik Surabaya)は1957年に設立された。月1回指導者が集まり、たとえばメシアンやストラヴィンスキーなどの楽曲分析について講義を受けたり討論したり、また演奏や映画などを通して学んでいる(例:ストラヴィンスキーとシェーンベルグの楽曲分析講座など)。スラバヤには音楽院や大学がないため、ヤマハのような音楽学校や個人の指導者に習っている人が多い。生徒、指導者とも数えきれないほど沢山いるが、国レベルでの指導者組織がない。ピアノ指導の質をもっと向上させたいと思い、今回の連絡会に参加した。ぜひ有意義な交流ができれば嬉しい。

シンガポール
Ms. Julie Tan/ President, The Singapore Music Teachers' Association
シンガポール音楽指導者協会会長のMs.Tan

公教育の面では、小学生~中学生までは学校に音楽の授業があるので、子どもが音楽へ触れる機会が多い。また打楽器、合唱、アンサンブルなどの機会もある。専門教育を行う音楽院・音楽学校は、ナンヤン芸術アカデミー(Nanyang Academy of Fine Arts)、ラサール芸術学校(La Salle College of the Arts)がある。この場合「芸術」とは音楽、彫刻、映画、写真、マルチメディアなど全てを含む。またシンガポール大学付属ヨン・シートウ音楽院(Yong Siew Toh Conservatory of Music)は創設10周年を迎え、2000人の生徒が在籍している。政府は音楽やアート分野へ積極支援しており、国のピアノ&ヴァイオリンコンクールが12月に開催される。プロのコンサートも多い。

一方私教育の面では、ほとんどの子どもは個人の指導者から習うことが多いが、ライセンスが必要のない分野であるため、指導者育成は極めて重要な課題ととらえている。

シンガポール音楽指導者協会(The Singapore Music Teachers' Association, SMTA)は、シンガポールがマレーシア連邦から独立した翌年の1966年に設立された。大学教授などトップクラスから初心者の指導者までが繋がることを目指し、互いに交流できるよう図っている。
また検定のための勉強に偏らず、より有意義な音楽体験ができるように演奏者のためのフェスティバルを開催している。第4回大会には300人ほどが参加した。特徴はコンサートのように聴衆の前で演奏すること、教授2名から自筆の講評を頂けること、DVD収録をすること、サーティフィケートや優秀者には金銀銅メダルが授与されること。さらに審査員2名から銀メダルが授与されると奨学金も与えられる。
また隔年でピアノ指導者会合も開いており、来年は他国からの参加者も受け入れる。インドネシア、香港、タイ、マレーシアなどから来る予定。ぜひ皆さんにもお越し頂きたい。

カナダ ※ゲスト
Dr. Peter Simon / President, The Royal Conservatory of Music
カナダの王立音楽院学長Dr.Simon

王立音楽院ではコミュニティに根差した音楽教育をするほか、音楽学習システムを作り国内外に広めている。カナダ・北米を中心に40~50万人のピアノ指導者がこのシステムを利用し、音楽検定(The Royal Conservatory Music Examination)を毎年10万人が受けている。さらに世界中の音楽学習者・指導者が使えるように、シラバスなどのオンライン化を進めている。

i)音楽学習システムのカリキュラム&検定について

この学習システムは音楽のリテラシーを上げ、創造性と芸術性を高める教育ができるよう、指導者を手助けすることを目的としている。ピアノを始め、21の楽器(歌を含む)が対象。ピアノ・シラバスにはバロックから21世紀現代曲まで2,500曲が収録されている。演奏のほか、理論、音楽史、聴音、初見など音楽に必要な要素が全て盛り込まれている。レベルは1~10まで。カナダの首相はレベル10を取得しているそうで、音楽の勉強が今の自分に役に立っていると話している。
音楽検定は年4回実施され、トレーニングを受けた約400名が試験官となっている。演奏試験と筆記試験で構成され、

ピアノ演奏 レパートリー:56%
エチュード:12%
テクニック:12%
聴音:10%
初見視奏:10%
音楽理論 基礎理論
和声
楽曲分析
音楽史
教育法

で配分されている。試験結果はオンラインでも閲覧できる。

参考)
Examination General Information
Musicianship Syllabus(PDF)

ii) 演奏指導に特化したグレン・グールド音楽学校

グレン・グールド音楽学校には才能ある若手125人の生徒が在籍している。パフォーマンスに特化した教育を行っており、ピアノ科合格者は1~2人/年、弦は2~3人/年という少数精鋭である。講師にはレオン・フライシャー、エマニュエル・アックス、ジョン・ペリー、マキシム・ヴェンゲーロフなど。生徒の一人、ポーランド出身ヤン・リシェキは3年間通っていた(現在年間60公演、独グラモフォン社と契約)。学校が指揮者やレコード会社とのやり取りなど、マネジメント面でもサポートしていた。また世界有数の音響を持つコンサートホールを有し、アンドラーシュ・シフやミドリなど著名アーティストが出演している(年間200以上公演)。ぜひカナダにお越しの際には学校をご覧頂きたい。

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