第10回:ネット動画はサクッと短尺?それとも長尺?基本的な構成の考え方
ネット動画はサクッと短尺が良い?それとも長尺?
基本的な構成の考え方
YouTubeチャンネルをすでに運営している方が必ず1度は迷うポイントが「適切な動画の長さとは?」ということではないでしょうか。それは動画の「構成」の問題と言って良いかもしれません。
- 見どころのみを簡潔に短尺で見せたほうが良い?
- 過程も含めてゆったり長尺で見せたほうが良い?
- お決まりのオープニングムービー、挨拶トークは必要?
- 仮で編集してみたけど、ちょっと長すぎる気がするから前編後編に分けようかしら?
- 収益のことを考えるとミッドロール広告が入れられる最短条件の8分は絶対超えたほうが良い?
- ライブ配信の適切な尺って?
- YouTubeにおすすめされやすい尺ってあるの?
- そもそもYouTubeの視聴者さんはどれくらい見てくれるものなの?
といった様々な疑問がおありと思います。
尺の長さ・構成は、YouTubeクリエイターならではの具体的な疑問となりますが、結論から申し上げますと、毎度恐縮ですが「正解はありません」。ただ、具体的に制作を行う時には必ず何らか選択が必要です。ですので、今回は「どのように尺・構成を選択すればよいのか?」という考え方の指針についてお話します。
この話がこれからの制作に際して「〇〇の効果を狙って〇〇分の動画を〇〇な構成で作ってみよう!」という発想の下支えになれば幸いです。
まずは「そもそもYouTubeの視聴者さんはどれくらい見てくれるものなのか?」がうかがえる例をみてみましょう。ここではYouTubeのMCNであるThe Online Creatorsでサポートしている事例(サポートしているチャンネルの月間再生数は合計で約7億回)をベースにご紹介いたします。
動画1回の視聴で平均してどれくらい長さになったのか?という数値です。2018年では5分40秒(340秒)でしたので、3年で約1.4倍長く見られるようになったということが分かります。
もちろんコンテンツジャンルや視聴ユーザー層によってはほぼ変化が無いケースもありますが、全体の傾向としては視聴者が1本の動画を見る時間は長くなっていると考えられます。
動画の全体の尺に対して、「実際に視聴された時間の割合」を示す数値です。2018年は33.2%でしたので、この数値が下がりながら、平均視聴時間が伸びているということになります。それはつまり構成される動画の尺自体が長くなっているということを意味します。全般的な傾向としてコンテンツが長尺化していますので、平均再生率が下がりながらも、結果として1視聴あたりの時間は長くなっているわけです。
2018年は1分40秒(100秒)でしたので、3年で約1.8倍長く見られるようになりました。
2018年は32.8%でした。3年で構成される尺が長くなり、かつ再生率も上がっています。飛躍的に平均視聴時間が長くなったということが言えます。
1. ライブ配信の増加
各ジャンルに共通する傾向としては長尺のライブ配信コンテンツの増加が挙げられます。
顕著な例ですが、総尺3時間近くのライブ配信で、平均視聴時間が1.5時間という例がありました。
YouTube視聴者の方々は、テレビのチャンネルとは比較にならない選択肢の中から「その時間でやることの最優先事項」としてライブ配信を観ます。チャットでの参加も楽しみにしているかもしれません。ですから、それなりの長さがあったほうがファンサービスになるということなのでしょう。
また、結果がどうなるのかわからない長時間の耐久企画のようなコンテンツ(例:「24時間ピアノを弾き続けます」といったライブ配信)ですと、長さそれ自体がコンテンツとしてのフックになるケースも多く見られます。
2. 通常の公開動画の長尺化
そのチャンネルで日常的に公開されているような動画でも1~2時間近くになる動画があります。特にゲームなど実況系のコンテンツですと十分に視聴維持できるケースが多いです。万人ウケを目指さざるを得ないTVではなく「趣味にどっぷりつかりたい!」という視聴者にとっては「ネットだからさくっと短尺で」ということにはならないようです。
3. ASMRなど癒しをベースにした音声コンテンツ
音声だけでコンテンツが楽しめるような動画は、視聴時間が長くなる傾向にあります。
他のことをしながら…の「ながら視聴」です。これに沿う形のコンテンツで、音楽ジャンルで増えつつあるのは「テーマをもったメドレーなどで複数曲が展開されるようなコンテンツ」です。
音楽ジャンルでもライブ配信などを中心に「長尺化」が見られますが、通常の動画も含めて長尺かつ高い平均視聴率を実現できたのが、「メドレー型」です。
代表的な例でいうと、作業用・勉強用・睡眠用などBGMとして展開しているコンテンツや、
オンラインコンサートと称してトークを挟みつつ、流行りの15曲くらいを演奏するものや、
ファンから募集したリクエスト曲を数多く演奏する、というものもあります。なお音楽ジャンルは様々ですが、長尺の動画に多い音楽的傾向は「癒し」かもしれません。
YouTubeはコンテンツの質の評価方法として、「インプレッションのクリック率」と「視聴時間」を挙げています。
- クリック率~いかにサムネイルと動画タイトルがクリックされやすいか(視聴者が見たい!と思うか)
- 視聴時間~いかに長く動画を視聴し続けているか(見たい!と思った視聴者が確かに見続けているか)
この2つの最大化が、動画のさらなる露出増のチャンスを作ります。そして「せっかく見てもらえるのであれば長く視聴してもらえるように長めに構成しよう!」というクリエイターたちの思惑も流れを作ったでしょう。
また8分を超える動画にはミッドロール広告と呼ばれる動画の途中に入れ込む広告も設定できるようになりました。長く視聴されるコンテンツは1視聴に対して複数回広告を露出するチャンスがある=収益性が高いものになりました。
かといって「動画が長くなければ通用しない!」というわけではありません。
実際音楽系の動画は平均3分という平均視聴時間ですが、そのクリック率の高さから「バズる」動画も多いですし、アニメ系の動画でも、総尺2分程度のショートコント的なヒット動画も生まれています。さらに言うと「ほんの一瞬かわいい!」十数秒のアニメーションが爆発的に視聴されるケースもあります。また短尺の代表例と言えるTikTok動画を公開するチャンネルもあり、爆発的な成長を見せている例もあります。
ちなみに、そうした短尺動画を中心としてるチャンネルの場合、動画から動画へ関連動画を中心に視聴遷移していき、動画単体での視聴時間は短いものの、複数本の動画が観られた結果としてチャンネル全体としてみたときに視聴時間が長い、ということが多いように感じます。
また別の側面でいうと「YouTubeショート」という最長60秒までの縦型動画のサービスも始まっており、
チャンネル登録者の新規獲得に有効であった例なども聞いております。
そうした短尺コンテンツが増えることで、知らないチャンネルでも見てみよう!といった新しいコンテンツに触れる機会が増えるのかもしれません。
ここまでのお話では「やっぱり長尺が良い!」「いやいや短尺が!」と一向に指標と呼べるようなものが無く、ますますの混乱を招いているかもしれません。これを以前の講座(第6回など)でも触れたコンテンツ戦略「3H」を使って整理してみたいと思います。
Hero(ヒーロー) | 広く多くの人に向けて展開されるコンテンツでチャンネルに視聴者を呼び込む |
Hub(ハブ) | 継続的に更新されるレギュラーシリーズでありチャンネルの核となる |
Help(ヘルプ) | 必要になったときに助けになるような、検索されやすいもの |
これら3つの頭文字が3Hとなるわけですが、この3Hを使って整理してみましょう。
既存のファンでなくても見ていただけるようなリーチを稼ぐタイプの動画ですので、視聴の敷居が低く基本的には短尺(とは言っても長尺化の傾向から10分程度まで範囲内かと思っています)で構成されることが多いが、度を越した長さ自体がコンテンツになる例(数時間の耐久チャレンジ企画のライブ配信)もある。
インプレッションのクリック率が高くなければならず、話題性・トレンドに乗った企画か、魅力がシンプルであることが新規視聴者に対しては求められるかもしれません。(シンプルな魅力例:かわいい、びっくり、怖い、面白い、すごい、素敵、美味しそう、いま話題、ショッキング)
ただ、発売前から話題になるような新作のゲームの最速プレイ実況は長くても新規視聴者に対して敷居が高くなることはありません。
トラフィックソースでいうとブラウジングが中心となりますので、多くの視聴者にリーチすることを狙います。
継続的に更新されるレギュラーシリーズでありチャンネルの核となります。
Heroが視聴のきっかけとなり、その後の継続視聴を生むのがまさにハブコンテンツになります。
現実社会も含め一般的にエンゲージメントを醸成するもっともシンプルな要素は、対象に触れる頻度と長さであると考えられていますが、それらをどれだけ高められるかをYouTubeコンテンツでいうと更新頻度と、総尺(から得られる視聴時間)です。このため、コンテンツジャンルにもよりますが15分~1時間超の比較的長い尺が求められるケースが多いです。
もちろんアニメーションのようにその視聴時間を短尺の動画を複数本見ていただくことでチャンネル全体としての視聴時間を確保する方法もあるわけで、その場合はサムネイルの構成含めそれぞれの動画のトーンが似せ、「同じシリーズなのね!」ということを分かりやすくある必要があるかもしれません。トラフィックソースでいうとブラウジングと関連動画が中心となります。
必要になったときに助けになるような、検索されやすいものです。
基本問題解決のためのコンテンツなので、無理に長く構成する必要はないかもしれません。
サムネイルと動画タイトルが「Q(問)」になっていて、動画の内容が「A(答)」になっているのが基本パターンです。「A(答)」が簡単に分かり、かつ納得感のある説明で信憑性もあるコンテンツ。これらの尺は5分~15分程度のものが多い印象です。
トラフィックソースでいうと他に比べるとYoutube検索から流れてくることが多い特徴があり、新規の視聴者にもリーチできます。
3Hといっても、もちろん「HelpっぽいHero」「HubかつHero」というコンテンツもあるでしょうから、基本的な考え方としてご参考とし、応用していただければと思います。
最後にオープニングや挨拶トークなど動画の構成について。
これが最も答えの出しにくいお悩みポイントではありますが、YouTubeでは視聴維持の推移を分析することができます。
以下は動画単位のYouTubeアナリティクス>エンゲージメント>視聴維持率で確認できるグラフガイドになります。
このように時系列で視聴維持を確認することができます。
グラフを読み取って、今後の制作に活用していただきたいと思います。その道筋をPDCAで示してみましょう。
「出来るだけ視聴者さんに楽しんでいただけるように」と意図(Plan)して構成した動画を、まずは公開(Do)してみて、実際にどのように維持(離脱)したのかを確認(Check)し、急激な山や谷の要因を次の動画構成に反映させる(Act)といったPDCAの繰り返しの中でクリエイターごとの正解を探す。
こんなイメージです。
また上記の過程で、それぞれの動画がどのようなトラフィックソース経由で、どんなサムネイルと動画タイトルで視聴に至っているのかも同時に確認してみてください。
視聴者は基本サムネイルと動画タイトルにひかれ、ある程度コンテンツのイメージを期待して視聴に至っているという大前提があります。その整合性をつける(=期待に応えられるようにする)ことがもっとも視聴維持につながるポイントであると考えています。
視聴維持の推移を確認すれば、本来サムネイルに盛り込まなければならないポイントも発見できるでしょう。
これはクリエイター自身が見せたいものと、視聴者が観たいものの差を埋めていくことでズレを少なくする作業でもありますし、場合によっては、自身の見せたいものが正しく届く視聴者を発掘するというターゲットの問題かもしれません。
こうなると、YouTubeに限らずクリエイターにとっての永遠の課題ですが。。。
以上、はっきりとお伝えできる正解はやはりなく大変恐縮ですが、全般的な傾向をふまえた基本的な指針・考え方をお伝えさせていただきました。皆さまの最適な選択の参考になればと思っております。