置かれた場で咲く姿勢が実を結んだオンライン専門教室
置かれた場で咲く姿勢が実を結んだオンライン専門教室
思えば私のキャリアはめまぐるしい変化の連続でした。音大を卒業後2年間は楽器店講師として勤務しますが、もう一度勉強し直したい思いが芽生え大学院に進学。院修了の頃に結婚し、新天地で自宅教室を開設しました。生徒募集に苦戦しているうちに妊娠・出産。よく泣く子だったので子育てにエネルギーの多くを注ぐことになりました。指導が思うようにできず悩んでいたところ、夫の仕事の都合で東京から名古屋に転居が決まります。はじめは家の都合で電子ピアノだけで教えていました。住まいを変えてアコースティックピアノを置けるようになってからも、子育てを大事にしたい思いからレッスン時間を大幅に増やすことはできませんでした。
この当時、私が力を入れていたのが乳幼児向けのコンサートです。自分の子どもには、クラシック音楽の生演奏をたくさん聴かせたい!でも探してみると、親が子どもを抱っこしていないといけなかったり、プログラムの多くがアニメの曲だったりと、行きたいコンサートがなかなかないことに気づきました。子どもたちが自由に動き回れる環境で、落ち着いてクラシック音楽を楽しめる、自分が理想とするコンサートは自分で創るしかないと思い、仲間と共に企画しました。初開催は東京でしたが、転居先の名古屋でも継続して実施しました。
初めは子育て支援センターにチラシを置いてもらい、イベント告知サイトにも投稿しました。集客のメインは、以前から取り組んでいた育児日記のブログ。次第にチケット発売日当日に即完売するようになったので、メルマガを発行し先行販売するようになりました。コンサートは4年間続き、ここで生まれたご縁から平日午前にリトミックのグループレッスンにもつながっていきました。
さらなる大きな変化が訪れたのは2019年。夫のドイツ駐在が決まります。当時は「またゼロからのスタートか」と思う気持ちもありました。そんな中、リトミックのグループレッスンに通っていた生徒のうち数名が、オンラインでもいいので引き続き先生に習いたいと言ってくれました。もともと機械に強いわけではなく「海外でもLINEってつながるのかな?」という状況。どこまでのことができるか模索しながらのスタートで、当初はLINEのビデオ通話のみで対応していました。幸運なことに、生徒の年齢が低く指導内容もソルフェージュが中心だったので、支障なくレッスンができ、オンラインレッスンの可能性を信じることができました。今はツールの種類も増え、音質も当時よりずっとよくなっているので有難いですね。
本格的にオンラインレッスンを開始したのが10月、その半年後に新型コロナウイルスが猛威を振るいました。日本全国の学校が休校となり、多くのピアノ教室も休止したことで、一気に問い合わせが増えました。コロナの前からオンラインレッスンの方法や料金体系をまとめていたことが安心感につながったのかもしれません。試しに自分でも検索してみたところ、私のブログ記事が検索結果表示で一番上に来ていて驚いたのを覚えています。毎日のように入会申込が届き、4月の申込は通算34件に。オンラインレッスンの需要をひしひしと感じました。
様々な事情で通常のレッスンを受けることが難しい方のお役に立てるようにと、2020年の1年間はあらゆるニーズの方を受け入れました。1年後、オンラインレッスンに対応する教室も増えたタイミングで方向転換。場所を問わず生徒募集ができるオンラインレッスンだからこそ、教室の方向性を強く打ち出そうと思いました。そこからは、コンクールに向けて真剣に取り組みたい方を応援する教室として生徒募集の的を絞っていきます。有難いことに、2020年度は4人、2021年度は11人の生徒がピティナ・ピアノコンペティション本選進出を果たしてくれ、オンラインでもコンクール指導ができると自信がつきました。
現在は、不定期の方を含め70人ほど指導しています。1日のスケジュールとしては、まず8:30~13:00までオンラインレッスン。ドイツでは騒音法という法律があり、日中13:00以降は音を出すことができません。13:00以降の時間を希望する方には、電子ピアノで対応します。お昼休憩の後はブログやInstagramを投稿し、LINEで届く生徒からの問合せに対応します。15:00頃からは動画添削コースの方向けにフィードバック動画を撮影。17:00~19:00まではヨーロッパ在住の日本人向けにレッスンをしたり、引き続き動画を撮影したりして過ごします。19:00以降は家族との時間も取れていて、子育てとの両立もできています。
レッスンで心掛けているのは、自分の直感を信じてホンネで伝えること。機材の影響で上手く聞こえないのでは?と迷うことがあっても遠慮せず、「きれいな音で弾けてないんじゃない?」と切り込みます。オンラインレッスンだけでは確信を持てなかったかもしれませんが、動画添削を併用することで確信をもって指導できるようになりました。また、年に1度は帰国して対面でのレッスンを行い、生の音の響きを確認しています。
オンラインならではの工夫は、たとえ話をたくさんすることでしょうか。3拍子の感じ方は「大縄跳びを回すように」とか、消えるように音を収めてほしい時には「綿あめが口の中ですうっと溶けてしまうように」、「中華料理屋さんのチャーハンのようなパラパラした音」と説明したこともありますね。日常のあらゆるシーンを指導に活かせると思います。
もし今後日本に戻ることがあっても、オンラインでの指導を続けたいですね。今来てくれている皆さんとのご縁を大切にしたいですし、きっと今後も自分の環境は変化していくと思うので。
そして、今後はオンラインレッスンの可能性について伝える活動もしていきたいです。私と同じように育児との両立に悩む方、転勤で住まいを転々とせざるを得ない方、体調の波がある方など、一般的な自宅教室の運営が難しい人がいらっしゃるはずです。生徒さんの側でも、居住地や時間の制約を抱える方は多いですから、オンラインレッスンの良さを発信することで、ピアノ指導の可能性を広げるお手伝いをしたいです。
国立音楽大学器楽学科ピアノ専攻卒業。聖徳大学大学院音楽文化研究科博士課程前期課程修了。2015年5月に東京にて「赤ちゃんからのコンサート」を共催。以後、名古屋市内および近郊にて同コンサートを展開。その活動は中日新聞朝刊にも掲載された。2019年よりドイツに拠点を移し、【ドイツ在住のピアニストと練習できる オンラインピアノ教室】を主宰。