ピティナ調査・研究

「きっかけ」によって広がる輪

スタート!ピアノ教室

「きっかけ」によって広がる輪

私の活動の柱は、ピアノ教室の運営・指導、そして小学校の音楽の非常勤講師です。これらのキャリアは、どちらも周囲からの助言がきっかけでした。

保育園の一角から

ピアノの指導を始めたのは大学院1年のこと。それまで教える仕事を意識したことはありませんでしたが、保育園を運営する父の勧めにより、園の一角で指導を始めました。もともと、ここで川崎智子先生がピアノ指導をされていて、私も3歳~小学6年生まで川崎先生に教わっていたんです。恩師と共に教室を開き、現在も一緒に活動できるなんて、得がたいご縁だと思います。
卒業後は教室の主宰として、本格的に運営を開始。やるからには教室を発展させたいという気持ちがありました。偶然、幼少期から一緒に切磋琢磨してきた先輩方が「真理子の教室で教えたい!」と声をかけてくれ、期せずして自分を含め5人でスタートしました。川崎先生も相談役として見守ってくださり、切磋琢磨しながら成長していきました。小さい子とのコミュニケーションの取り方や、電話応対や保護者の方々への連絡など、在学中から父の横について学んだ経験が活きたと思います。
開校から5年経ったころ、先輩方が結婚や出産により教室を離れることとなり、新たに3人の後輩を講師に迎えました。新体制になり、私も先輩として助言を行う立場になりましたが、意欲ある仲間と協働しているという点は、開校当初から一貫していますね。講師採用の時には「子どものことを一番に考えてくれる人か」を一番大事にしています。

子供たちの輝く瞬間を大切に

今年で9年目となる小学校の非常勤講師の仕事も、友人の提案で応募したのがきっかけでした。初年度から2校を兼務し、現在に至るまで通算5校で指導してきました。
小学校ではピアノ教室とは違い、たくさんの生徒を一度にみなくてはいけません。そして音楽が好きな子ばかりではないので、子どもたちの興味を引き付ける言葉の選び方、話すスピードなどを考えながら授業をしています。一番大切にしているのは、子供たちと言葉や音楽でコミュニケーションをとって仲良くなること。音楽室を「楽しく学べる場所」と捉えてもらえるように、教科書を進めるだけでなく、オリジナルのゲームや体操を取り入れています。また、音楽が好きな子も苦手な子も気軽に音楽室に来られるように、「お昼休みに楽器を練習しにきていいよ」と声掛けしています。過去には授業が成立せず苦労することもありましたが、おとなしく机の前に座っているだけでなく、歌ったり様々な楽器を使ったりして、あの手この手で真剣に生徒に向き合うことで、音楽の喜びが伝わっていったと思います。
悩み多い時期でも頑張ることができたのは、赴任先の先生方が生徒のことを大切に想い、真摯に向き合う人ばかりだったから。彼らの背中を見て、私も子ども達が輝いている瞬間を大切にしたいと思うようになりました。専科担当はクラス担当と違い、教員同士の横のつながりを持ちにくいので、意識して自分から話しかけ、周囲の先生から学ぶ機会を作っています。

「音楽が好き!」の連鎖へ

ピアノ教室と学校、どちらで教えていても「学ぶ人の存在なしに指導は成立しない」と感じます。こちらが言いたいことを一方通行で押し付けてもあまり意味がなく、一人一人の性格や特徴に合わせたコミュニケーションが欠かせません。音楽の魅力を発見するきっかけも人それぞれ。コンクールを通じて曲を掘り下げる経験をしたことで、音楽の奥深さに気づく人もいれば、メロディーに歌詞をつけて歌を歌ったり踊ったり、他の楽器で遊んだりすることで、他者と共に音楽を創る楽しさを味わう子もいます。身の回りで起きた事やハマっている遊び、時にはちょっとしたお悩み相談といった何気ない会話が、相手を理解する第1歩。ともに良い音楽をつくるための適切な距離感・信頼関係構築を心がけています。
有難いことにこの10年で、近隣の学校や地域の皆さんに教室の存在を認知してもらえるようになりました。これからも地元の子どもたちに、ピアノや音楽を通して人生を豊かにする経験を提供したい。そのためにも、いつでも生徒に寄り添える指導者であり続けたいと思います。

又吉真理子

沖縄県立芸術大学大学院修了。大学院在学中にこすもすピアノ教室を開講し、2015年~2020年まで沖縄県立芸術大学の非常勤伴奏員として勤務。大学院修了から現在まで小学校の音楽専科非常勤講師として勤務。2022年全日本ピアノ指導者協会(PTNA)より新人指導者賞を受賞。