ピティナ調査・研究

「好き!」「得意!」を活かして

スタート!ピアノ教室

「好き!」「得意!」を活かして

離れて気づいたピアノへの思い

3歳から習い始めて以来、ずっとピアノが大好きだった学生時代。とにかくピアノを弾きたいという思いと、両親の「地元に残ってほしい」という願いから、愛媛大学教育学部の音楽科に進学しました。同級生の多くが音楽教諭を志す環境で、私も教員免許を取得したものの、進路に対する違和感を抱えていました。
結局、卒業後は地元の有名なお菓子メーカーの販売店員として就職。入社半年で店長を任されましたが、責任の大きさと多忙のために体調を崩してしまいました。退職後は歯科助手とテレビ局のスタジオアルバイトをしながら、子どものころからお世話になっていた篠原実貴子先生のもとでピアノを再開しました。社会人になってしばらく離れていたピアノが、自分にとってどれだけ大切だったのかを改めて実感しましたね。

思いがけず指導者デビュー

指導を始めたのは、学童の子どもたちへのピアノ指導を手伝ってほしいと声をかけてもらったのがきっかけです。指導経験がまったく無いなか、恩師の篠原先生に教えていただいたバスティンを使い、解説書を読みながらレッスンしていました。学童のレッスンを担当したのは1年ほどでしたが、生徒の成長を目の当たりにして、ピアノ指導のやりがいや面白味を知った貴重な期間でした。
結婚を機に住み始めた大阪で教室を開こうと考えてからは、楽器店から案内があったセミナーや勉強会に積極的に参加しました。指導法に関するものだけでなく、教室運営のセミナーも受講しましたね。講座の内容はもちろんのこと、受講者同士の交流を通じて、テキストの選び方や使い分け、そして当時課題としていた導入期の指導について実践的な学びを得ることができました。また、自分自身のコンクール挑戦をきっかけに師事した真鍋小百合先生にも、たくさんアドバイスをいただきました。今でもレッスンのたびに、指導法やテキストの使い方、生徒のコンクール対策、イベント運営についてなど幅広く教えてくださって、感謝しています。
生徒募集はホームページを中心にしつつ、新天地である大阪を知るため、町を歩きながらポスティングもしました。足を動かして得た気づきが今につながっていると思います。

「好き」や「得意」を活かせるピアノ指導という仕事

私は、デジタルイラストの創作が好きで、学生時代からWebサイトも作成していました。この時の経験は、教室の広報やレッスングッズの作成に活きています。例えば、バスティンの教本から着想を得た400マス練習帳には、愛着をもって使ってもらえるよう生徒に流行のキャラクターのイラストを描きました。
発表会に向けては、7段階の「上達度チェック表」を作成。自分の「現在地」を可視化し、練習のモチベーションを引き出せるよう工夫しています。また発表会当日は、自作の「メッセージカード」を使って、お互いの演奏を聴きあい感想を交換しています。今では生徒だけでなく、保護者の方も書いてくれるようになり、90枚近くのカードが行き来しています。
また最近ではソルフェージュの面から生徒の課題を見つけて補強できるよう、指番号を瞬時に弾くタイムアタックや音当てクイズ、視唱などのテストカードを作成しました。ピアノ指導者こそが、生徒の成長のために自分の得意を活かせる「天職」だったのかもしれません。

自作のレッスングッズの数々
発表会のプログラムも生徒の発想が花開くキャンパスに。
キャラクターに着せる衣装をデザインしたり、演奏する曲のイメージを描いたり。
ピアニストはエンターティナー

私は、ピアノを再開してから現在に至るまでずっと、コンペのグランミューズ部門に参加しています。指導者として、様々なステージに立つ生徒の指導につながることはもちろんですが、何より私自身が人前で演奏するのが好きで、続けていきたいという思いがあるからです。地元の芸術文化財団のアーティストバンクにも登録し、親子向けコンサートの企画や学校への訪問コンサートも行っています。
人の心を揺さぶる演奏をするためには、「私は何が好きなんだろう」「どう弾きたいんだろう」と問いかけ、自らの意志をしっかりと理解していることが重要だと思います。なぜピアノを弾くのか、どうしてその曲を選ぶのか、誰に何を伝えたいのか…。ピアノを通じて、生徒たちにも自分と向き合う経験をしてほしい。そして、音楽に限らず自らの「好き」「得意」に気づき、個性を活かして周囲の人に喜びを届けるエンターティナーになってほしいですね。

山本安耶香

愛媛大学教育学部芸術文化課程音楽文化コースピアノ専攻卒。 一般企業への就職を経て、ピアノ指導の現場へ。現在は大阪府にてれもんピアノ教室を主宰。

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