ピティナ調査・研究

長所に向き合うことで開けた道

スタート!ピアノ教室
長所に向き合うことで開けた道

生徒の可能性を引き出す指導を目指して

恩師の言葉に背中を押され気づいた「自分にできること」

先生が指導の道に進もうと思ったきっかけは何ですか?

小学校の時から、ピアノの先生になりたいという夢を持って、音高・音大に進みました。入学当初は演奏に注力していましたが、専門的な環境で経験を積んでいく中で、あがり症の自分は「本番を楽しめない」という壁にぶつかってしまいました。
壁を越えられずに悩んでいたとき、恩師の佐々木邦雄先生が「やりたいこととできることが違う人もいる。やりたい事だけを追いかけていたら実らない目標でも、できることを磨き続けていれば思いもよらない方向から実現することがあるんだよ」と仰って下さり、ハッとしました。それまでの自分は、足りないことの底上げにばかりに目が向いていて、自分の長所に向き合ったことがなかったんです。そこではじめて自分はソルフェージュが好きで、得意だということに気が付きました。そのときからソルフェージュに対する興味が湧いてきて、佐々木先生の教室でソルフェージュクラスのアシスタントをさせていただくようになりました。
もともと人に教えることは好きでしたし、生徒との交流の中で、音楽が人を人間的に大きく成長させる過程を目の当たりにして、指導の道に進もうと心に決めました。

大学院卒業後、すぐにご自宅で教室を開講されます。

はい。佐々木先生のソルフェージュクラスや訪問レッスン等で学生のころから指導経験は積んでいたので、院を卒業してからは実家で教室を開きました。
_ご自身の指導法はどのように確立していきましたか?
それがですね…(笑)最初に教え始めたころはまだ学生で、導入期の指導については全然分からなかったんです。自分はヤマハ出身だったこともあって、個人教室で使われるテキスはよく知りませんでした。そこで、楽器店にリュックと手提げを持っていき、運べる限りの教材を買い込んで、ピティナのセミナーで使い方を学びながら手当たりしだい実践しました。そうしていくうちに教材ごとの長所・短所が分かってきて、今では1歳から大人まで幅広い世代の方のレッスンに対応できるようになりました。

ミニコンサートもできるレッスン室。今後はグループレッスンも開講予定。
教室独自の「グレード」で生徒のモチベーションと能力を高める

ソルフェージュの指導について何かこだわりはありますか?

「ピアノ」を習いに来る子供達、習わせに来る親御さんに、ピアノのレッスンの中でソルフェージュの大切さや楽しさをどう浸透させていくかは、常に考え続けています。その中で、以前は「ソルフェージュ科出身だからこそできる指導をしなきゃ」と自分にプレッシャーをかけていましたが、生徒の力をつけるために、出身専攻など関係なく、自分が大切だと思うことを指導していけばいいのだと思えるようになったのは最近のことです。今はレッスンの最初の10~15分程度をソルフェージュに充て、例えば初見奏のときにはアナリーゼも織り交ぜたりしています。小さい子には「同じメロディーはどこかな?」と簡単なところからはじめ、慣れてきたら楽譜にどんな記号が書かれているか、その曲のイメージはどんなものか、言葉にしてもらったりしています。
また、目標を持って取り組んでもらうために教室独自のグレードを作って、必要項目をクリアしたら合格証書をあげています。ソルフェージュの学習を掘り下げていけばもっと音楽力が上がり、色々な事が出来るようになるということを多くの子供たちに伝えていくべく、今はソルフェージュを題材にしたYouTubeの開設や、グループレッスンの立ち上げのために準備を進めています。

グレードの存在は生徒さんの自信に繋がりますね!

2年ほど前にグレード試験をはじめました。半年に1回のペースで、外部の先生にも審査をお願いする本格的なものだったんです。ただ、コロナ禍で外部の先生をお呼びしづらくなり、また全員が一堂に会するのも難しくなったことをきっかけに、実力チェックの方法は見直そうと考え始めました。これまでも「ソルフェージュは好きだけどテストは嫌」という声をもらうことがありました。一方で、一つ一つ合格し、賞状をもらうことをとても楽しみにしている生徒もいます。ですので、レッスンの中で課題をクリアできていたらチェックシートをつけ、全ての課題がクリアできたら合格という形を検討しています。

ピアノだけではない学びを発信したい!

先生自身が常に学び続け、新しいあり方を探求していらっしゃいます。今、関心があることは何ですか?

ピアノのレッスンは保護者のサポートもとても大切です。かねてから、子どもと保護者のやり取りがかみ合っていないと、せっかく自宅練習をしているのに思うように力がつかない場合があると感じていました。子どもたちだけでなく、保護者の皆さんにもアプローチできることがないか探すなかで、選択理論心理学を活用し指導をされている中村孝治先生の存在を知り、教室での講義をお願いしました。それ以外にも、ママ向けのコーチング、子供向けのコーチング、子どもの気質に関することなども勉強するようになり、選択理論心理学をはじめ、それらを知らずに指導していた過去の自分が信じられないくらいにコミュニケーションの質が上がったと感じています。

それらに加えて、生徒の自己肯定感を高める心理的アプローチの方法にも興味があり勉強をしています。長らくいろんなお子さんを見てきましたが、以前は負けん気の強い子が多かったのに対し、最近は言われたことはきっちりこなせる反面、自分のやりたい事や自分の良いところを掘り下げられる子が少なくなったように思います。ただピアノを上手にするだけでなく、一人一人の可能性を引き出せる指導者になりたいですね。
また、ピアノ教室は一般の方が音楽と出会う入口の役割も持っています。子どもたちにはピアノに限らず音楽を好きになってもらいたいので、多様な楽器・ジャンルの作品について造形を深め、教室としても色々なイベントを企画して、音楽の魅力を広く生徒に伝えられるようになりたいです。

聴く機会づくりのために始めた「週刊ピアノ曲紹介」。
感想カードは、子どもたちの感性豊かな言葉であふれている。

ピアノを通して身につけた力は、生きる力につながるはずです。もしも途中でレッスンから離れる時期があったとしても、ピアノへの愛情は変わらず、また再開したいと思ってくれるような人を育てていきたいです。

藤原千里

東京音楽大学ピアノ科卒業、東京藝術大学大学院修士課程音楽文化学専攻ソルフェージュ研究領域修了。東京音楽大学付属幼稚園リトミック助手も務め、リトミック初級・中級・上級指導資格を取得。複数のテキストの製作協力にも携わり、現在はヴィーヴォミュージックスクール、(有)ケーエスミュージックで後進の指導にあたっている。