ピティナ調査・研究

12年の教員生活を経てピアノ指導者へ~時間をかけて一人一人と向き合う教育を~

スタート!ピアノ教室
12年の教員生活を経てピアノ指導者へ

~時間をかけて一人一人と向き合う教育を~

「10年をかけて1人を育てる」という言葉に背中を押されて

大学卒業後の進路を考えたとき、音楽を教えたいという思いで、教員採用試験だけでなくヤマハ講師の採用試験を受けていました。どちらを選択するか悩みましたが、公教育の場で教育に専念しようと考えて教職を選びました。

「音楽を教える」ことはもちろん、「音楽で教える」(音楽を通して教える)との思いをもってやってきましたが、多くの生徒と関わる中で、音楽に限らずさまざまな面で、時間をかけての教育、一律ではなく一人一人に合った教育の必要性を感じてきました。また、ピアノを習っている生徒は、音楽の授業や合唱コンクールでのピアノ伴奏者や指揮者、吹奏楽部などで活躍していました。そして音楽の力に限らず、多くの活動の土台となる「高い集中力」「習慣化する力」「根気強く続ける力」などが身についており、ピアノ教育の意義を間近で感じる機会もありました。

そんな中、組織で働く立場上、自分の思いとは違うやり方で仕事をしなければならないこともあり、自分のポリシーを大事にして指導するためには、自分で教室を主宰するべきではないかという想いが芽生え始めたのです。12年間の中学校教諭として関わった生徒たちとの時間はかけがえのないもので、簡単に手放せるものではありませんでしたが、そんな私の背中を押してくれたのは、益子祥子先生の本にあった「10年をかけて1人を育てる」という言葉です。益子先生も教員からピアノ講師になられ、学校教育もピアノ教育も共通点が多くあると感じました。また働き方という観点でも、ピアノ講師は家庭を大切にすることと働き続けることを自分でコントロールできる仕事だと思いました。

「長い時間をかけて一人一人と向き合う教育を」という想いを胸に、2020年3月に退職。退職はしましたが、学校での音楽教育にも関わりたく、午前中に中学校の音楽科非常勤講師として勤務する形にシフトしました。今年度はピアノ教室も満席となり、週4日の学校勤務との両立は大変な面もありますが、学校現場にいることがピアノ教室での仕事にも生き、ピアノ教室での経験が学校での教育にも生き、それぞれに生かせていると思っています。

コロナ禍でのスタート

2020年5月に教室を開校したものの、緊急事態宣言下で生徒募集に後ろめたさがあり、はじめはオンラインで3人だけ教えていました。対面でのレッスンをスタートしたのは6月になってからでした。8,9月ごろから生徒数がぐっと増え、現在の生徒数は44名です。学校での仕事とバランスを取りつつ一人一人に丁寧な指導ができるように、基本的に15時~19時30分の範囲でレッスンをしています。

今いる生徒の多くがホームページを見て問い合わせをしてくれました。ホームページは自作で、クレヨンというサービスを使用しています。教室独自のドメインを設定するために、有料プランを利用していますが、年間10,000円かかりません。レイアウトなどすべて自分で行いました。そんなホームページですが、作っただけでは、検索に上がらないということすら知らないスタートでした。SEO対策の本を読み、ワードに気を付けることを知ったところで検索順位を上げるのは難しいものでした。さまざまな対策の積み重ねで、上位に上がってきたと思いますが、ホームページ内のブログを教室の生徒や教員時代の教え子、そのご家族が読んでくれて、閲覧数が増えたことが功を奏したのかもしれません。今では自分の考えをお伝えするコミュニケーションツールにもなっていると思います。出身地でもなく、ピアノ講師歴もない私にとって広報活動のため、必要に迫られて始めたホームページですが、現在は在籍生徒や興味をもって読んでくださる方を思って、楽しみながら日々ブログを書いています。

さまざまな生徒さんと向き合い勉強の日々

私自身、教員として10年以上勤務し、演奏力を売りにできるわけではありませんでした。しかし、1000人を越える子どもたちを見てきた経験から、「一人一人に寄り添う教室」を目指そうと思いました。ホームページでもその想いが伝わるように、「いつ始めてもOK」「一人一人にあったレッスン内容を」というメッセージを随所に散りばめました。それを受けてか、ピアノを楽しみたい方ばかりで、今までやりたくてもなかなか始められなかった高学年の子や大人の方、高齢の方もいらっしゃいます。小さい子でも保護者の方がレッスンに同行されない場合も多いですが、そのぶん本人のピアノを弾きたいという意欲は高いです。また、保育士志望や教員志望の大学生、学校の音楽の先生も来てくださっているので、試験や現場に生きるレッスンをしています。
練習環境も人それぞれで、キーボードしかない生徒、電子ピアノの生徒も多いです。さまざまな事情があるので、今のところは厳しいことは言わず、それぞれの環境に寄り添いたいと思っています。例えば、キーボードを使っている子には楽器の写真を送ってもらい、特性を把握したうえで宿題を出したりアドバイスをしたりするように心がけています。折を見てアコースティックピアノで練習する意義は伝えていますが、ご家族の考えあってのことなので強制するつもりはありません。

とにかくピアノを一生好きでいてくれたら、人生の中の大事なものの一つになってくれたら、という思いが根底にあって、そのために日々のレッスンの満足度を高めるよう努めています。学校勤務があり、リアルタイムでのセミナー参加は難しいですが、書籍や音声教材などで指導法を研究し、時にはレッスンも受けて自分自身の練習も大切にしています。

一人一人に合った教材・アプローチを提供するために研究を重ねています

ピアノを通して身につけた力は、生きる力につながるはずです。もしも途中でレッスンから離れる時期があったとしても、ピアノへの愛情は変わらず、また再開したいと思ってくれるような人を育てていきたいです。

鷲澤亜也子

石川県小松市出身。4歳よりヤマハ音楽教室にてピアノ・エレクトーンを始める。ヤマハ演奏グレード6級、ヤマハ指導グレード5級取得。小松市立高等学校芸術コース音楽専攻卒業。名古屋芸術大学音楽学部器楽科ピアノコース卒業。中学校・高等学校教諭1種免許状(音楽)取得。卒業後、12年間中学校音楽科教諭を務める。2020年より教室主宰。