ピティナ調査・研究

肌で感じたロシア音楽教育の「対話」オンライン活用で幅広い発信

スタート!ピアノ教室
肌で感じたロシア音楽教育の「対話」

オンライン活用で幅広い発信

教える側としての経験 ~日本以上に「密」なロシアの学校教育~

先生はモスクワ音楽院終了後、ロシアの学校で教えていらっしゃいます。

 ある州の公立音楽学校で教えていました。わたしが教鞭をとったのは初等教育課程を終えた人がくる「ウチーリシ」という高等専門学校のような機関です。ロシアでは、初等教育のころから午前中と午後の部に授業が分かれていて、午前または午後に普通教科を学んだら、残りの時間は専門教科を学びます。ですので、質の高いレッスンが求められました。

いわゆる日本の「音楽の先生」ではないんですね。

はい、全く違っていて、レッスンも毎日あるんですよ。音楽を専門に選んだ生徒はソルフェージュや合唱の授業、選択した楽器のレッスンを毎日受けるので、日本のピアノ教室で習う以上に深く学ぶことになります。良い音楽を一緒に作っていけるし、練習方法についてもきめ細やかに教えることが出来ました。

とても刺激的な環境ですね!

オンラインレッスンで帰国後もグローバルな活動

ロシアでの教師生活の後、お子さんの出産を機に日本に帰国されます。地元に戻られたのには何か思いがあったのでしょうか?

 いえ、子どもの母国語を日本語にしたいと思い帰国しました。子育てのしやすさという点で地元を選びましたが、自分の活動地域という点では特にこだわりはありませんでした。

そうなんですね、先生は現在ご自宅のほか、高等学校の非常勤講師としても活動されていますが、そういった意味ではオンラインでの生徒さんを広く受け入れられていらっしゃいますよね。

東京や、大阪、海外の方など地域を超えてやっています。ペースは基本的に週に一回で、コンクール前は毎日みることもあります。普通のレッスンと同じですね。現在は34人の方がオンラインレッスンを受講されています。

34人!スケジュール的にとてもタイトですね!

大人の方で月2回の方もいますが…そうですね(笑)海外の方になると時差もあるので、向こうの方が夕方のレッスンを希望された場合、こちらは朝に待機しなければなりません。

教材はどういったものを使用されていますか?

バスティンを使う人が多いですね。色々と教材を紹介するのですが「バスティンが好き」という方が多いです。途中で他の先生から移ってこられた方はこれまでやったものに、基礎を学べるバイエルなどをプラスしてやったりしています。

生徒さんとの対話を大切にされているんですね。

そうですね、それこそロシアでの教え方が、コミュニケーションを重視するものでした。もちろん学校のメソッドはあるんですけど、ひとりひとりにあった教材を追加で選ぶためには対話が大事だと思ったので、日本でもそうするように心がけています。 「対話」という点で、オンラインレッスンはよいツールだと思います。そばにいると思わず手を出してしまいますよね。音で伝えることも簡単にできます。ですが、オンラインレッスンでは必ず言葉で伝えなければいけないし、生徒も分からないことや意見を言葉にしないとレッスンが成立しません。制約がある分、対話する力を鍛えるのにとても役立っていると思います。そういう意味では、良い時代になりましたよね。

コロナ禍を機に止むを得ずオンラインレッスンが取り入れられるなか、先生は二年前からこの形式ならではの良さを伝えられていたんですね!

オンラインレッスン後は、メールでその日の内容をフィードバック
対話を通じて適切な教材を決めていきます

これまでの経験を活かした情報発信 ~セミナーを通じて~

先生は以前ロシア音楽のセミナーもされていました。

楽器店からのオファーでスタートした講座でした。わたしが専門的に学んできたロシア音楽の分野について、特に子どもの教育に関わっていきたいという思いで内容を考えました。人気のあるカバレフスキーを選んでも良かったのですが、ロシア音楽が持つ、より土着的で民族的な音に子どものころから触れて欲しいと思い、チャイコフスキーやプロコフィエフ、フェインベルクの子どものための作品を取り上げました。例えば、チャイコフスキーはドイツ、フランスへの渡航歴があり、作曲の仕方、フレーズの書き方が他のロシア人作曲家とは違います。「ナポリのうた」を弾く際、皆さん上手にナポリ風を再現されますが、ほんとうはもっとロシア語的な要素も含まれているんですよ。そういったことをお伝えするための講座でした。コンクールでも、(ロシアの作曲家の作品での)アーティキュレーションが日本語的に・あまりにもきれいに整って聴こえることが気になっていました。ですので、作曲家や作品の背景をお話したり、日本語訳されていない論文の内容をシェアしたいと思いました。

セミナーのほか、YouTubeやライブ配信でもロシア音楽の魅力を紹介

反響はいかがでしたか?

驚きの反応を多くいただきました。「語学的に弾く」ことの意味や、作曲家のバックグラウンドを知ることがどれほど重要かという事がしっかりと伝わった反応だったので良かったと思います。

実際にその土地の空気を肌に感じてこられた先生ならではのセミナーですね。

教える立場の方に向けて発信ができたというのがとても良かったですね。もし自分の話が誰かの役に立つならば、こうしたロシアのお子さん向けの作品について紹介するセミナーも積極的に展開していきたいと思っています。

手嶋沙織

武蔵野音楽大学器楽学科卒業後、チャイコフスキー記念国立モスクワ音楽院に学ぶ。2013年にディプロマを得て同音楽院修了。モスクワ音楽院修了後カルーガ州立タネーエフ記念音楽学校においてピアノ科及び室内楽の教鞭を執る。現在はコンクール審査員・公開レッスンなど後進の指導を行う傍ら、ロシアおよび日本国内で演奏活動を行なっている。