ピティナ調査・研究

300万円の銀行融資で自分のピアノ教室に「通勤」

創業支援制度の融資300万円を受け、

20代で自宅外に教室を開講!

留学して東京に行けば仕事がたくさんあると思っていました(笑)

 私は宮崎生まれ、大分県出身で、25歳まで九州を出たことがありませんでした。大学在学中より留学への憧れがあり、宮崎学園大学音楽専攻科を卒業後、留学資金を貯めるために3年間公立中学校で先生になりました。小規模な学校だったので、英語と音楽、そして卓球部の顧問までしていました(笑)
今振り返れば、教員時代に書類を作成したり調べ物をしたりする力はついたと思います。
ある程度留学資金を貯めたところで、1年半、ミュンヘンに住み南ドイツのアウクスブルグで勉強をしました。ドイツは学費が安いのですが、とにかく「自分で勉強する」ことが求められる土地でしたね。

 帰国後、九州に帰るという選択肢はなく、アップライトピアノ1台を持って川崎市に住み始めました。漠然と『留学して東京に行けば仕事がたくさんあるんだ』と思っていたんですね。落ち着いて考えればそんなことないって気づきそうですけど。(笑)
一人暮らしの自宅でアップライトピアノ、というあまりよくない条件ですが個人指導を始め、並行して横浜市の中学校非常勤講師としても務めました。実は教室にあるピアノはこの時の音楽科の同僚のものです。
その後1年足らずで順調に生徒は20名近くまで増え、2015年3月、初めての発表会をおこないました。
このころ「本格的に自宅以外にレッスン場所を持ちたい!」と思い、お金と場所について真剣に考え始めました。

▲第3回 発表会の様子
▲教室の玄関スペース。壁にかかるのは、教室OPENのお祝いにプレゼントされた絵。
「小規模事業者持続化補助金」に採択される

 教員時代に国の助成金を受けて文化事業をおこなうことが多かったので、自身の開業資金調達を考えたときに「助成金とかないのかな?」と探してみたところ、川崎市の小規模事業者持続化補助金を見つけました。
結果としては、採択されたものの希望物件が見つからず断念したのですが、この時の申請のための書類作成が大変勉強になりました。商工会議所の方がサポートしてくださいましたが、「とにかく数字が大事。わかりやすい数字をつけるように」とアドバイスを受け、企業概要・市場の動向などを書面にしました。

 川崎市は人口が増えており2035年まで人口が増加するエリアであるということ、また半径1km圏内の小学校の数や児童数なども調べて表記しました。

 このような項目の数字を実際に調べることによって、自分自身でも「このエリアでのピアノ教室は成功できる」という確信を持てることにもなりました。

川崎市信用保証協会の制度を利用し、300万の創業支援融資を受ける

 引き続き機会と物件を模索しながら、2016年に川崎市信用保証協会の制度を利用し、川崎信用金庫から300万円の融資を受けることが決定しました。そこから大至急で準備を進め、2016年5月に現在の場所に「Colza Music School」として教室をOPENしました。
9畳の防音設備を入れた教室にするため、楽器店の方など多くの方にお世話になりました。一つ一つ初めての経験だったので、例えば、工事中の職人さんへの差し入れに失敗したり......(笑)、ピアノを弾く・教えるとは全く異なったところで、たくさんの学びがありました。

▲ 教室の壁絵は後輩の人気イラストレーター「オカタオカ」さんによるもの。「シンドバッド伝説」の一幕。

 2016年5月に教室をOPENしてから、順調に生徒さんも増え、現在70名。(取材時2018年4月)自分自身では週4日担当し、自分以外に3人の講師の先生に働いていただいています。

メリットは『ライフイベントに左右されない』ということ

 自分でもまさか教室経営者になるとは思わなかったのですが、教室と自宅が離れていることのメリットのひとつは、ライフイベント(結婚・介護、等)に左右されない、ということです。
例えば、結婚して今の住まいから離れても、教室に「通勤」すればいいし。両親の介護が必要になって、九州に帰ることになったら、教室の鍵を講師の先生たちに渡すだけで、自分は移動できます。
そして、自分の教室でピアノを教えることにプラスして、更に興味のある分野にチャレンジができます。実は、「高等教育にも携わってみたい」という思いもあり、この春から都内の音楽療法専門学校でのピアノ科講師としての仕事も始まりました。
今後やってみたいこととしては、TOKYO MXテレビのクラシック特番「明日への音楽」の司会!(笑)これ、書いておいてください、どこかからオファーが来るかもしれません。実は同じ誕生日の音楽家仲間が元旦に司会をしたので次は私だ!と新年に誓ったまでです。

 と冗談はこのくらいで(笑)、9月2日に地元大分県のホールが主催事業として私のコンサートを企画してくれました。仕事で九州に行くのを1つの目標にしてきたので演奏や指導で伺う機会が増えるといいなと思っています。
また、ピティナでは川崎南武ステーションの代表を務めさせて頂くことになりました。 これまでの経験を活かしてステップ開催や学校クラスコンサートなど、教室周辺を中心に川崎市の音楽文化の発展に対しても力になりたいと思っています。

 銀行から融資を300万円受けた、とお話しすると驚く方もいらっしゃいますが、車大好きな私としては「30歳になるから記念にローンを組んで300万円の車を買った!」というのと同じくらいのニュアンスです。車だったら300万円ってそんなに高いランクじゃないと思うんですよね(笑)

繁田 優菜

宮崎生まれ。大分県出身。宮崎公立大学、宮崎学園大学音楽専攻科修了後、単身渡独。アウグスブルク大学レオポルド・モーツァルト・センター、ミュンヘン大学、kbo-KinderzentrumMünchenでピアノ、音楽教育学、音楽教授法を学ぶ。 帰国後、2016年川崎市に自身のスタジオを持ち、現在は関東と九州地方を中心に活動。川崎市民活動センターの助成のもと「0歳からのコンサート」「学校アウトリーチコンサート」を行う市民団体「アウトリーチ協会フロイデ」の代表を務める。東京音楽療法福祉専門学校ピアノ科、非常勤講師。ピティナ川崎南武ステーション代表。
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