ピティナ調査・研究

ワンレッスン制教室で生徒にピアノを続けてもらう

生徒と指導者、互いが目指すものの接点を探す

相手のスタンスを尊重するワンレッスン制教室

別の仕事を経験して気づいた「かけがえのないピアノ」

もともとは中学校の先生に憧れていて、音大に進むと決意したのも高校1年と普通よりずっと遅いタイミングでした。実は、学生時代も「ピアノの先生にだけはならない」と思っていましたし、自分には教える資格なんてないと感じていました。卒業後2年間は、レッスン受講と演奏活動は細々と続けつつ、書店で働く日々。本に関わる仕事も楽しかったのですが、次第に「自分の特技である音楽を活かしたい」、「自分にとってピアノは切っても切れないものなんだ」という想いが大きくなっていきました。そこでピアノと関われる仕事は何だろうと考え、そして自分の子ども好きという特性を考えたときに、決してならないと思っていたはずの「ピアノ指導者」という仕事が浮かび上がってきたんです。

とはいえピアノ指導に全く自信がなかったので、研修がしっかりしていること、優秀なピアニストを輩出していることからヤマハのシステム講師になろうと決意。結婚し愛知に移った現在までかれこれ12年継続しています。

一番の壁は、価値観の違いを受け入れること

指導を始めた当初は、コースによって異なる教材の内容を把握し、1時間レッスンの指導案をまとめるのが大変でした!慣れない頃は1回分の指導案を作るのに3時間もかかっていましたね。何が起こっても対処できるよう、想定される質問と回答まで書き込んで臨んだら、生徒に「先生セリフ書いてるー」と指摘されたことも(笑)回を重ね、場の空気を掴む力が身についたことで「どんなに緻密に準備したことでも場の流れに合わなければ使えない」と感じるようになり、2年目からは必要以上に考えすぎず取り組めるようになりました。

それから、何より苦労したのは「自分と生徒との価値観の違い」にどう折り合いをつけるかでしたね。たとえば私自身は子どもの頃、指を早く動かすのが苦でなかったし、当たり前に譜読みしてレッスンに行っていましたけど、それが簡単じゃない人も大勢いる。自分の当たり前は、他の人の当たり前でないことに気づかされました。ピアノを優先順位の第何位にするかも、ご家庭によってそれぞれ。自分だけの価値観にとらわれていては指導なんてできない!と意識を切り替えるのが一番大変だった気がします。

ワンレッスン制の自宅教室をスタート

2016年のはじめごろに、友人から自分の子どもを指導してほしいと言われたことをきっかけに、システム講師は続けながら土曜日だけ自宅での指導を開始しました。友人のお子さんが毎週通えない方だったので、そういう人でも受け入れられる教室にしたいと思い、ワンレッスン制に。近隣にワンレッスン制の教室が少なかったからか、想像以上に多くの方が来てくれました。予約は一律でインターネット受付だけで、レッスンの前後に申し込みを促すこともせず、生徒さんのタイミングで申込みしてもらっています。

ワンレッスン制だと、バリバリ取り組みたいのか、のんびり進めたいのか、生徒のスタンスがはっきりとレッスン回数に現れます。本人にとって適切なペースでレッスンに来ることで、結果的にピアノを続けやすくなった生徒さんを見ていると、生徒自身が日数を選択できるピアノ教室があってもいいんじゃないかな、と感じています。ただし、指導者から見ると「この子は毎週来る方がいいだろうな」と思っても、お金が関わることなので「毎週来たら」と簡単には言いにくい場合もあるのが課題ではありますね。

自作のウェブサイト
レッスン予約の申込ページ
ブログが優秀な広報媒体に

自宅指導のスタートと同時に、広報のためにブログも開設しました。教室に来てくださる方、特に長く習い続けてくれる生徒さんは、私のブログを読んで共感してくれた方が多いです。ブログでは「演奏力が身についてこそ音楽を楽しむことができる」という自分のスタンスを割とはっきりお伝えしているので、早い段階から波長が合うというか、話が早い方がいらっしゃる気がします。

長期的な目線で見つめる生徒の成長

指導するうえで意識しているのは、長い目で見て生徒の成長にプラスになるかを判断基準にすることです。昔の私は完璧主義でしたが、もっと突き詰めようと指導したことで、生徒のモチベーションを下げてしまったことがありました。その経験から、今は生徒と対話して「本人がどこまで取り組みたいのか」を大切にしています。たとえ指導者から見て目の前の課題が100パーセント仕上がったとは言えない状態でも、新たな課題を次々にこなしていくうちに生徒自身が成長し、求めるラインも上がっていきます。指導者が目指すレベルは高く保ちながらも「今この瞬間」だけでクリアしようとするのではなく、長期的に実現できればいいんだと思います。一番大切なのは生徒をピアノ好きにすること。好きでさえいてくれれば、本気になったタイミングで自ら行動してくれます。

生きる力を育むサポートができる、ピアノ指導者という仕事

音楽的な上達に限らず人間的な成長をお手伝いできるのが、ピアノ指導者という仕事の魅力だと思います。たとえば「次の発表会では何を頑張ろうか」と目標を共有し、達成できた時の喜びを分かち合い、今回の結果を受けて次はどんなことに挑戦しようか、というやり取りを一人ひとりの生徒さんと丁寧に行いますよね。「目標を設定し、計画を立て、実行し、振り返る」というのは、音楽の学習に限らずあらゆることで必要な取り組みであり、ピアノを通じて、生きていくために必要な賢さが身につくと思います。彼らの頑張りに私が励まされることもありますし、私が演奏や指導の学びを深めることが生徒さんの背中を押すこともあり、お互いが成長への道を目指す伴走者だと感じます。

大野まどか

おおのまどか◎神奈川県出身。昭和音楽大学器楽学科ピアノ演奏家コース卒業。横浜市の楽器店8年間の勤務後、結婚を機に愛知県瀬戸市に移り、2016年よりワンレッスン制の自宅教室「まどか音楽教室」を構える。ヤマハ指導グレード、演奏グレード、エレクトーン演奏グレード取得。
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