ピティナ調査・研究

新人指導者成功の秘訣はコミュニケーションにあり

大学卒業後2年目指導者のリアル:

若さがプラスにならない現実。
コミュニケーションを見直して先生としての信頼を勝ち取る。

『ピアノの先生になる』という選択肢を考えたのは大学2年生のころ

正直に申し上げると、大学入学直後は、「東京の音大まで来て、将来街のピアノの先生はないな...」と思っていました(笑)
ですが、大学2年生の頃に自分の演奏面での実力に直面したり、そろそろ卒業後を真剣に考えなければいけないと気付いたりしまして......。
もう一度「何がしたいか」を考えた末に、「音楽を仕事にしていきたい」と思い、その時に「ピアノの先生」という道を視野に入れました。
国立音楽大学のピアノ科では3年生からコース選択ができるので、その中で「ピアノ指導コース」を選び、進級しました。

「ピアノ指導コース」では3年生からの2年間、一人の生徒さんを受け持ち、実際にレッスンすることを通して「ピアノ指導」の勉強をします。
私もピアノを初めて習う小学2年生の生徒さんを担当し、一からの指導を経験しました。

一週間に1回生徒さんのお宅に直接伺う出張レッスン形式で、月に3回は自分ひとりで伺い、1回は指導教官に同行してもらってレッスンをします。
自分の担当生徒のレッスンだけではなく、同じく「ピアノ指導コース」を受けるクラスメイトとの公開レッスンや、生徒さんを交代してのレッスンなど、自分の指導に向き合うだけではなく、他者のレッスンからも多くの学びや気付きを得られる環境でした。

そのような指導実践から導入期の教材研究などまで、指導することに必要なノウハウは2年間で一通り学習できます。その経験を経ているので、卒業後子どもの生徒さんへのレッスンではそれほど困ることはありませんでした。演奏を聴くと「こういうふうにレッスンしようかな?」と色々アイデアが浮かんできてワクワクします。

学生時代から探し続けた「卒業後のレッスン室」

卒業後に地元に帰ることは想定していなかったので、東京での住まいのことは学生時代からいつも気にかけ、検索に検索を重ねていました。
一人暮らしの先生方の悩みとして多いと思いますが、自宅で教えることになった場合、プライベートスペースとレッスン室を分けたいというのは重要かもしれません。現在の住まいはメゾネットになっていて、その点がクリアされているので、生徒さんにも親御さんにも、そして私自身もストレスなくレッスンしやすい環境です。

また、駅からの距離・交通手段・家賃・周辺環境(住宅街で子どもがいるかどうか、小学校などが近くにあるか)など調査を重ね、借りる前には実際に子どもたちの登下校時間帯に周辺を歩いてみたりもしました。

楽器店講師への就職と迷い

卒業後まずは楽器店の講師としてピアノ指導の経験を積んでみようと思い、就職活動が始まる大学3年生秋、大手を何社か比較検討しはじめました。
自分の住居・活動拠点にしたい場所・ライフスタイル、その他様々なことを検討して宮地楽器に決め、一社しか受けませんでした。
宮地楽器の良いところは、入社して最初の1年は、実際にレッスンをする日の他に事務仕事や研修を受ける日があることです。事務仕事なども業務内になりますので、その中で社会人としての基礎能力を身に着けることができます。

とはいえ、悩みなく『ピアノの先生』一択の進路だったわけではなく、やはり留学や進学をするかどうかとのあいだで、いつも悩んで揺れ動いていました。最後の最後、卒業演奏会が自分の中でもっとも上手に演奏できたことで、「やっぱりもう少し演奏の勉強もしたい!」と思ってしまって......。
色々な方に相談したところ、尊敬する先輩から『今の時代、勉強も留学も、やる気になれば、いつだってどこにいたってできるでしょう。せっかく内定をいただいてご縁がつながっているんだから、今はそのご縁に乗ってみても良いのでは?』と言われて、確かにそうだな、と思いピアノの先生の道へ進んでいきました。

「ピアノの先生」になって初めて経験した「若さがプラスにならない」現実

子どもの生徒さんのレッスンには苦労はありませんでしたが、実は大人の生徒さんとのコミュニケーションで苦労をしました。
入りたてで当時22歳の私が前任の先生から引き継いだ生徒さんからは、「今度の先生は随分お若いのね、お話も合わなさそうだし辞めちゃおうかしら」と言われたこともあります。

その時はショックでしたが、『自分の倍以上生きていらっしゃる人生の先輩に'先生'って呼んでもらうにはどうしたらよいだろう?』と真剣に考えました。

私が気を付けたことは、(1)服装 (2)話題 (3)レッスン内容の専門性、の3点でした。

  • それまで柔らかな明るい色が多かった洋服を、少し落ち着いたシックな色味を多くすることにより実年齢より落ち着いた印象を持ってもらえるようにすること。
  • レッスン前後のご挨拶ではお天気の話に触れたり、雑談では時事問題へも触れたりすること。
  • レッスン内容では「趣味だから」と言わずに、大人だからこそ興味を持ってもらえそうな曲・作曲家の背景、和声分析等、適度な専門性のある内容を盛り込むこと。

特にご挨拶や雑談などのコミュニケーションの仕方は『先生と呼んでもらうにはどうしたらよいか?』ということ以上に、これから指導者として生きていくにあたり必要なことだと強く感じています。

結果、その生徒さんをはじめ大人の方も今では数多く担当していますが、どなたともピアノを介した素敵な時間を過ごさせていただいています。

『指導』というより『仲間づくり』

ピアノの先生は、同じ音楽を聴いて・演奏して感動を共有できる「仲間」を増やしている素敵な仕事です。私自身「指導」というよりは「同志と一緒に音楽を楽しんでいる」と感じることが多いですね。

大学卒業後、本格的に仕事を始めて2年目ですが、生徒さんだけではなく自分も含めて、日々変化していくことをとても楽しめています。

篠田 明花 しのだ はるか

国立音楽大学、同大学ピアノ指導コース修了。在学中より学内外においてソロ、声楽、器楽伴奏等の演奏活動をおこなうとともに、幼児から音大受験生を中心に指導にあたる。 これまでにピアノを長谷川香織、有森直樹、花岡千春、堀田万友美、藤井一興、山本光世の各氏に、和声・作曲を山口博史氏に師事。