ピティナ調査・研究

第32回 発達障碍かな?と思う生徒さんへの対応法 中嶋恵美子先生

指導者が答える お悩みQ&A
日頃のレッスンの様子から、発達障碍かな?と思う生徒さんがいます。生徒さん、保護者の方へどのように接したらよいでしょうか?
中嶋恵美子先生にお答えいただきました。
指導会員、「発達障害でもピアノが弾けますか?」(ヤマハ)著者

これは、先生方からいただく中で一番多いお悩みですね。生徒さんの様子を見ていると、発達障碍なのかなと思う所があるけれど、自分では判断がつかないし、保護者の方には失礼かと思って直接聞けない。かと言って、いつものレッスンは通用しないので、どうしたらよいでしょう?というものです。

発達障碍に理解があることをそれとなく示す

生徒さんの側にも、様々なケースがあります。まだ3歳ぐらいで診断がつかない場合、幼稚園や学校でそれとなく言われたけれど病院にまで行けずにいる場合、また、発達障碍と言うと、教えられないとレッスンを断られるのではないかと思って、わざと先生に伝えていないというケースもあります。

指導者の側は、こうした、保護者の方が先生に伝えづらい様々な事情があるということをまず理解しておく必要があります。ですから私は、本の貸出コーナーにわざと発達障碍の本を並べておきます。すると「あ、この先生は発達障碍に理解があるんだな」と思って、保護者の方から打ち明けてくださることもあります。

私たちは医者ではないので、決して診断するようなことはしません。発達障碍かなと悩んでいる保護者の方は、お子さんを育てづらいと悩まれていることが多いので、保護者の方との信頼関係が築けてきた頃に、子育ての悩みとして聞いてあげたり、行政の子育て相談を勧めてみたりすると、徐々に打ち明けてくれるようになるかもしれません。

診断名に固執せず、その子自身を知ろうとするのがレッスンの第一歩

では、私たちピアノ指導者は何をすべきでしょうか。発達障碍かもしれないという様々なケースに対して、ピアノのレッスンを可能にするにはどうしたらよいのか、を考えることです。そこでまず大事なのが、「発達障碍の診断名に固執しない」ということです。eラーニング第1回でお話ししたように、自閉スペクトラム症、ADHD、学習障碍など診断されたところで、これらには重なり合う部分があり、特性の組み合わせは10人いれば10通りあります。

診断名に固執しなければ、障碍のあるなしを親御さんから伺っていなくても、この子はこういう特性が強く、こういう特性がほんの少しみられるのだと、目の前の子に応じた対応ができるようになりますね。「この子はこういう診断名だから」ではなく、「この子は〇〇の特性と〇〇の特性を持つ子」と、その子自身をよく知ろうとすることが、レッスンの第一歩だと私は考えています。

これからお話するような内容は、発達障碍のあるなし、大人か子どもかに関わらず、全ての生徒さんに通じる視点でもあります。

生徒を知るための3つの観点

私は生徒さんを知るために、次の3つの観点から生徒さんを見るようにしています。

1. 個性を知る
まずは、生徒さんがどういう個性なのかを知ることが大切です。注意するのがNGなタイプなのか、多動なのか、落ち着いているのか、自分の気持ちを口にするのが苦手なタイプなのか、よくしゃべる子なのか、など、様々な観点からその子の個性を捉えられると、レッスン中にもそれぞれに応じた接し方ができるようになります。

2.理解力を知る
次にレッスンする上で必要なことは、その子の理解力を知ることです。それによって、読譜の指導の仕方や宿題の出し方などアプローチの方法に違いが出てきます。

3.身体能力を知る
そして3つ目は、その子の身体能力を知ることです。理解力はすごく高いのに、身体や指を思ったように動かせないなど、頭と身体の発達がアンバランスな子もいます。そういう場合には、読譜は進めるけれども、身体は鍵盤から離れて右手と左手を別々に動かす練習からするなど、それぞれの能力に応じた指導が必要になってきます。

この3点をよく見れば、「発達障碍があるのかな、ないのかな」と悩むことなく、「この子はこういうタイプの子なんだ」という認識のもと、それにあわせたアプローチができるようになるのではないかと思います。

eラーニングの連載では、第2回以降この3つの視点をより具体的なケースを使って説明していきます。少しでも多くのケースをご紹介し、みなさんの指導アプローチの引き出しを増やす機会にしていただけたら嬉しいです。

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