094.「好きにさせる」以上の上達の近道はない
理想のレッスンができるようになり(前回)、教える側、学ぶ側の双方が、レッスン時間を通してより良くなり、有意義な時間が過ごせていれば、上達に向かいます。
ピアノのレッスンは、これまで述べてきたように、ただピアノを巧くすることだけでなく、人間形成に役立つ事も担っています。ですから、上達ばかりを目指さなくても良いのですが、やはり長続きするためには、上手になることも必要です。
人から上手だと褒められれば、自信も付きます。得意だと感じることからも、当然「好き」につながり、より得意になろうとします。
ピアノを習うという事は、当然、多くの時間と労力がかかります。しかも長い年月にわたってです。せっかくそれだけの手間をかけているのですから、やっている事は評価されるべきです。
ピティナでは、人前で演奏するステージの回数によって表彰される「継続表彰」というすばらしいシステムがあります。習い始めた時、まだコンクールなどに出るレベルではない時に「あれはどうしたらもらえるの?」と聞いてきた幼稚園児の生徒がいます。私が「何回も演奏したらもらえるよ」というと、「明日も出る!」と言っていました。
自分で演奏したことが、褒められる、表彰されるという事を知り、「がんばるぞ!」という純粋な気持ちの現れです。(この場合は、上手かどうかは関係なく、ステージ回数を褒めてくれるので、より多くの人がもらえるご褒美ですね)
日々のレッスンで、より良くなり、「すばらしい!」の笑顔と褒め言葉から始まり、時には、継続表彰、時にはコンクールに出て、それを目指した日々への努力への賞賛(それが入賞などにつながるとなお良いですが)など、評価をもらえることが、自分のしていることの確認になり、自信につながります。
そういう確認の場、自分のしている事を人に伝えて「良かったよ」と評価してもらえる場を上手に、適当に与えることが、上達へつながるのだと思います。
そして、もっと根本的なところでは「ピアノを好き!」にさせることが、もっと早く確実な、上達の近道です。
習い始めのきっかけが、「ピアノを弾いてみたいから!」という人ばかりなら、良いのですが、この頃は、自分の意思がはっきりする前に連れられて来る場合も多いです。
でも、きっかけは何であれ、ピアノの良さやレッスンで得ることのすばらしさが伝わり、「ピアノ大好き!」になって欲しいです。そうなるようなレッスンをしなくてはいけませんね。
大好きになると、練習もしなくてはいけないです。練習で弾いている時間も大好きにならないと!
しかし、ピアノは好きだけど、練習は嫌い。という人も多いです。小さいうちは、ほとんどが他にしたい事がたくさんあるので、なかなかピアノの練習は後回しになるようです。
そこに弾けるまでに時間がかかる人はなおさら億劫でしょう。色々な事を解決しながら、ピアノ好きだから、練習の時間を確保したい!という、自覚が出きるまで、周りが、支えてあげる。必ず、やっていて良かったと思える日が来ます。
楽しそうなピアノが、自分でも弾けて、嬉しくて、次の曲も弾きたい!という気持ちを生み、新たな曲との出会いを楽しみに、音をピアノに移していく事が楽しい、初歩の時期。
弾けない、難しいところが弾けるようになる喜びを知り、曲もカッコ良くなってくる中盤の時期。そして、世に残っている芸術作品を、自分の気持ちも込め、美しい音で弾き、人に感動を与えられる事を幸せだと感じる、上級。
この上級まで、年齢に関係なく、速く到達させることができると、長く多くの作品を弾く事ができ、やめる事もなく、生涯、ピアノを友とできるでしょう。
しかし、もしかしたら曲のレベルではないかもしれませんね。自分の行為が、人に感動を与えているという事がすばらしいことだと感じ、さらに、そうありたいと思うレベルに早く達すると良いですね。
段階によって、ピアノを好きという理由は考えると少しずつ違うかもしれません。好きにさせるポイントも年齢や、レベルによって違うということになります。
何でも「好き」だからできる。「好き」だから上手くなるのだと思います。ピアノだけでなく、練習も好きになるとさらに上達は早くなるでしょう。
褒められ、得意になり、「好き」になり、弾いているピアノもどんどん上手になり、他の事でも何でも「好き」になって、意欲的な生活が送れるとすばらしいですね。
ある先輩が「私は小さい頃、ピアノが欲しくて欲しくて、買ってもらえた日にはそのそばを通るたびに鍵盤をなでていたの!」と言われていました。
「今の子供は初めからピアノがあるのは当たり前で、ピアノを『弾きたくても弾けない』という事がないから、やりたいという気持ち薄いのかも。」と。 弾きたい!弾いてみたい!という気持ちが高まって、楽器が買ってもらえたら、嬉しくて一生懸命弾きますよね、確かに。
豊かな時代ならではの疑問ですが。もちろん、「楽器があるから習おう」という事も多いです。ピアノとの出会いが多くて良いことのようですが、本当に好きで弾きたくて、習いに来ているかなと、考えるきっかけでした。
でも、出会ったからには「好き」にさせれば良いのでしょう。
野球選手のイチローは「仕事の責任のために練習をしているわけじゃないんです。野球が好きだから練習をしているんです。ただそれだけです。」と言ったそうです。(この一言が人生を変える、イチロー思考、児玉光雄著より)
まさに「好きだとどんな努力も出来してしまう」実践者だと思います。
よく、子供たちがスポーツで、過酷な練習に燃えている姿を目にし、感心することがありますが、「好きだからできるのよね!」と思っていました。どうして、ピアノでは、あんなふうに一生懸命練習してくる事が少ないのかな?「好き」の度合いが違うのかな?とイチローのように、ただ純粋に「ピアノが好きだから、たくさん弾いてきました!」という原点を大切に育てたいです。
「好き」という感覚を大事にして、ピアノに「のめりこんで」欲しいですね。