089.理想の指導者とは?
「生徒を上手にする指導者」が理想の指導者でしょうか?
それとも「生徒をピアノ好きにする指導者」が理想の指導者でしょうか?
両方とも、大切な目的だと思います。
両方兼ねている指導者も多いです。
たくさんの情報に触れられる世の中ですから、「自分の求めている指導」を選ぶことは可能かもしれません。
しかし、相性が合う、合わないという事はありますが、多過ぎる情報に惑わされるなどして、どんどん指導者を変えるのは、あまり感心しません。ピアノの指導には長い時間がかかります。数ヶ月で何かが成し得るという事はないので、見極めには時間をかけたほうが良いです。言い方やテクニックの多少の違いなどはありますので、特に小さい生徒さんは指導者が変わると、迷うこともあり、かわいそうです。
ピアノ指導の良い点は、一対一の個人指導だということです。門をたたく前にリサーチをしっかりして、納得のいく指導者に出会い、信じて指導を仰ぐという事が、お互いに良い結果につながると思います。
良い指導者との出会いは、きっと生涯の財産になると思います。
さて、「優しい」と「厳しい」はどちらが良いでしょうか?
これも、時と場合により、両方を兼ね備えている指導者が理想だと思います。
指導者へのセミナーなどをしていると、生徒に「媚びる」とまではいかなくても、いつも甘く接している指導者もいることに驚きます。
「上手!上手!」と、おだててばかりで、上手になれば指導者は楽です。たとえ嫌われるとしても、今必要な事を真剣に伝えるため、必死になっている指導者のほうが、指導力がある場合が多いと思います。真剣だからこそ、真剣に怒れるはずです。
ただ、高飛車に「こうしかありません」という高圧的な態度では、指導を受けるほうも緊張してしまい、なかなかうまくいかないとも思います。
話がわかりにくい指導者も、良くないです。一瞬の指摘で変化させるためには、その生徒のわかる言葉遣いではっきりと「悪いものは悪い」と言え、良い時は「良い」と褒めることができる指導者が理想的です。そして、年齢に合わせた言葉かけも必要だと思います。
お手本を示すことも、わかりやすい指導ですから、弾いてくださる先生は理想的です!!ピアニスト活動をされている先生が美しい音で、弾いてくださると、それだけで学べます。全てが弾けなくても、ある一部弾き、このニュアンスがステキだという事が伝えられるだけでも、生徒はとても楽だと思います。
ただ、ピアニストの先生が最も理想的な指導者かというと、そうとは言えないこともあります。「弾けてしまう」人には、「なぜ弾けないか」がわからないのかもしれません。弾くことに苦労してきた人のほうが、指導力がある場合もあります。
常に勉強している指導者も、理想的です。生涯勉強と思います。ピアノは演奏も指導もとても奥が深いです。真剣に取り組み、どんどん指導法を研究、進化させている指導者はすばらしいです。共に学ぶだけで、ピアノ以外のことについても熱心さが身につくと思います。
経験が指導力を高めることは言うまでもありません。色々な経験をしている指導者は対処の仕方を知っています。導く多くの手段を持っています。しかし、経験が多いと、結果に対する予想も付きやすいので、「諦め」に近い、「今はこんなものだろう」と決めてつけてしまう場合もあります。
若い指導者には、自分なりの指導の理想があり、面白く感じていていますから、学び、燃え、共に進歩していけるともいえます。
指導期間は別にして、「情熱」を持ち続けている指導者がすばらしいといえるでしょう。常にそうありたいものです。
そして、人間的に尊敬できる指導者が、最も「理想的」かもしれません。
生徒を真剣に指導して、ピアノと共に人間的に伸ばそうとしている指導者に出会えたら、しっかりと全てを任せて良いと思います。
エピソード1
昔、ある生徒のお母様が、こんな事をいっていました。
「中途半端にお金をかけ、結局、何も弾けないで終わる事が、最ももったいないと思います。」 「その先生が長年、学んで身に付いた事を分けてもらうのだから、それ相応の、御礼は当然必要です」
学び始めた人がすべてピアノを弾ける、その道に進まなくても趣味として生涯弾いている事が可能なレベルに到達して欲しいものです。長い期間経費のかかるお稽古事ですが、すばらしい財産となるものです。価値のある身に付くものは、後では買えません。簡単にも買えません。理想的な指導者に出会い、ともに成長していけると良いですね。
エピソード2
私の師が言ってくださいました。
「街の先生が重要。しかし山ほどいる中で、どこにでもいるような街の先生になるな!『ここにしかいない』街の先生になりなさい」と。
エピソード3
もう一つ師から言われていたことがあります。
「先生の指導力がわかるのは、発表会です。指導力を世に披露する場では、1回でもいい加減なことはするな!」と。
発表会を聴きにいくと、生徒のレベルは一目瞭然です。
コンクールで「あの子は上手だが誰先生に習っているのかな?」と興味をひかれることがあります。しかし、その子が個人的に「よく出来る」のかもしれません。
一方、発表会では門下生100%です。教室自体のレベルもカラーも、真剣さも判明します。
大切な指導力の披露の場です。生徒と共に自分の一年を振り返るためにも、真剣に取り組まなくてはならないと、師の言葉を思い出します。