ピティナ調査・研究

067.指導の理想も下げない

100のレッスンポイント

「ここまで」と決めてしまうとそれ以上にはならないのは、演奏レベルだけではありません。指導も同じです。

演奏のレベルを上げるため、指導はもちろん重要です。

テクニック的なことから始まり表現や解釈に至るまで、指導者の助言は強い影響を及ぼします。同様に指導者の「求めるもの」が、学習者の演奏のレベルを大きく左右します。「これで良い」と思ってしまうと、それ以上にはならない事があります。

指導者の助言を頼りにしている生徒にとって、先生の言葉は絶対的な力を持っています。先生から「良い」と言われると、更に上を目指す気には、なかなかならないようです。

常に「上を目指す」ことが、とても大事だと思っています。

「生徒の年齢に対してのレベル」を決めることも必要ありません。

ピティナのコンペティションは故・福田靖子先生のお考えで、年齢の下限はなく、小さな子が上の級を受けることも可能です。「天才を見つけるのも、コンペティションの重要な役割だ」とおっしゃっていました。確かに、近頃は低年齢の世界的ピアニストが、コンペをきっかけに多く輩出されるようになって来ました。
子どもの可能性を指導者が止めてしまうのは残念なことです。今日になって、飛び級の意義がよく理解できます。

ピティナの杉浦日出夫先生(理事)がおっしゃっていた事も、よく覚えています。
ご自分の生徒に、新しい本を渡す際に「どこまででもやってきていいよ!」と言ったところ、次のレッスンで全部の曲を弾いてきたそうです。「数曲だけに限定しなくて本当に良かった」と思われたそうです。

「指導者がその子の可能性を決めてしまわない」ということを、その時、学びました。

一方、色々な内容を考えようとせず「ちゃらちゃらと」弾く生徒には、次のような話をします。

「自分の今の年齢にあった曲を弾くだけでも、曲は山ほどあります。それでよいなら、背伸びする必要はありません。でも、もし早く難しい曲を弾きたいと思うなら、その曲が弾けるだけの理解力が必要です。それが今の年齢に合うかどうかではなく、弾きたい曲のレベルに自分を合わせなさい」

決して目標を下げず、良いタイミングで、トライする気持ちの持てる曲に出会わせてあげることも、良い指導のポイントではないかと思います。

生徒が弾く曲に対して、たくさんの意見や注意をします。きっとうんざりしていると思います。それは私が、その曲に対してより高いところを目指そうとしているからです。決して現状の生徒のレベルにあわせず、自分の持っている音楽観に合わせようと思っています。理想は下げるべきではありません。

理想に近づくにつれレベルが上がります。

生徒には「先生から注意されることが多いほど上手くなる可能性が高い」と言っています。
良い音楽を聴けば、気分が良くなるものです。心洗われるような音や音楽を目指すため、伝えたいことがたくさんあります。

難しい曲の場合に限った話ではありません。
導入時期でも、上級の曲でもその気持ちは同じです。
今、その生徒が理想にどのくらい近づけるのかを観察しながらレッスンをします。少しでも近づいたら、褒めることも忘れません。ただ、理想は理想として、高く持ち続けたいと思っています。

エピソード

杉浦先生のお話をうかがって、私も試みました。
幼稚園の年長の子がブルグミュラー25の練習曲を始める時に「どこまで弾いてきてもいいよ!」と言いました。すると、次のレッスンで全部弾いてきました。その子のお母様も指導をされているのですが、その生徒さん達が弾いてよく耳にする曲ばかりなので、とても嬉しくなり、弾いてみたそうです。

以前ご紹介した「即読譜法」によって、とても読譜力がついていたことに加え、お母様曰く「幼稚園児にはたくさんの時間がある」ということで、ずっと喜んで弾いていたそうです。とはいえ幼稚園児なりの弾き方でしたので、全曲弾いたものの、上手ではなく、(ちょっと)がっかりでした。でも、どんどん弾いてみたいという純粋な気持ちはすばらしいと思います。
今でも、その時にたくさん弾きたくて弾いた力は随所に現れている気がします。

また、与える曲についても、「この程度は弾けるだろう」と思うものを与えるより、「これは頑張ればなんとか弾けるかな?」というレベルのものを与えることも必要と思います。コンサートなどで少し長い時間をかけられるときには、精一杯伸びる事を考えて、曲を与える事が多いです。

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