ピティナ調査・研究

057.和音を感じる!

100のレッスンポイント

ピアノの最大の特技が、同時にたくさんの音を出せるということだと思います。
その組み合わせにより、実に多くの感じを出せます。

2つ音が重なっただけでも、美しい響き、暗い響き、不思議な響き、不協和な響き・・・等が感じられますが、三和音になると、より性格がはっきりします。
楽譜に書いてある音を弾くと、メロディーにマッチしたハーモニーがあり、何の違和感もなく、美しく演奏されていきます。ただ、その瞬間に生まれる美しい響きをあまり感じることなく、書かれていることを弾いているだけ、、ということはないでしょうか?

突然天気が変わり、あたりがうす暗くなるような変化や、気持ちがふわりとするようなふくらみのある響きなどに、あまり敏感でない人がいます。「ここは明るいかな?暗いかな?」と質問をすると、なんと反対の答えが返ってくるようなことも少なくありません。

もったいないです!

急に話はショパンに飛びますが、泣きそうになるほど素敵な和音が使われていると思いませんか?
どうしたら、こんな音の組合せを思いつき、連続でき、ただでさえ美しいメロディーを、さらに極上のもへとしていくことができるのでしょうか?それができるから「ショパン」なのでしょうけども!

弾くだけで、当然「その音」は生まれてきます。が、それを「感じて」弾くのと、ただ音を出すのとは違います。もし後者なら、ピアノを弾く喜びのうち大きな部分を損しているかもしれません。

ステキな演奏のための読譜の鍵として、読みとった音を「心の中で想像できるか?」ということがあると思います。特に、音と音の組合せを心の中で響かせることができればとてもステキなことですし、心の中で響いたイメージを音にする楽しみがあり、良い演奏に繋がると思います。

楽譜を読むことの大切な役目に、「同時に弾く音の響きを感じ取る」ということがあると思います。もちろん、音を鳴らしてみてからでも良いです。でも、楽譜を見た時点で、心の中にその響きが感じられたらとてもステキなことだと思います。

今までの連載でも何度か出てきましたが、臨時記号が付いている和音や、重なりそのものが単純でなく神秘的な響きだったり、悪魔の音程(三全音)をクロスして含む減七の和音、複雑な進行をした後に出てくる、すっきりした集和音など、感じるべきステキな響きが、曲の中にはたくさんあります。

亡くなられた井上直幸先生の著書の中に、確か「小さい頃、音を重ねて遊ぶのが好きだった。」という文章がありました。「ステキだな!」と思ったことが忘れられません。

私も幼いころ、幼稚園で習った歌に勝手に伴奏をつけて弾くのが好きでした。ひな祭りの曲をよく覚えています。あの和風で楽しいはずの「ひな祭り」が、暗い和音で始まるのがいたってお気に入りでした(読譜のお話とはずれますが)。

作曲家がどんな音を重ねてステキな響きを創ったか、興味を持って音にしていくと、和音の読譜はとても楽しいことになると思います。

もうひとつ。大きく和声の流れを汲みとって音楽を感じるということも、大事なことです。
書いてあるのをそのまま弾く読譜ではなく、大きな流れをつかみ、和音に集約して弾いてみるということは、作曲家がその曲で言いたかったことをつかむために必要なことだと思います。

書いてある和音をただ音にするのではなく、その響きを感じ取ったり、意味を理解するために和声の流れを感じることができるのが、真の読譜と言えるかもしれません。

エピソード

ショパンコンクールで最高位だった、ケヴィン・ケナー氏に質問したことがあります。
「日本人は和声感が乏しいとよく言われます。どうすれば、和声感が付くのでしょうか?」
即答でした。
「和音で弾いていますか?」そして「両親とも音楽が好きで、小さいころから音楽をよく聴いていたので、自然と和声が耳に慣れていました。日本の環境との違いかな?」とも。
毎週、教会で讃美歌を歌って育つヨーロッパの人達とは、異なることもよく聴きます。その感覚が身についている西洋圏の人たちとは元々違うと分かっていますが、それなら、ヨーロッパの人たち以上に和音にあこがれて、和音で曲の進行を心に感じられるようになりたいものです。