ピティナ調査・研究

056.バッハは読譜の基

100のレッスンポイント

 以前にも出てきましたが、バッハは推理小説!というのが私のセミナーのタイトルにあります。いろいろなものがちりばめられていてそれらが絡み合い、何かを作り出している。それを読み取って人に知らせられるように弾いていく。すばらしい音楽だと感じられれば推理は正解ということになるでしょうか?

即読譜法から始まり、その音程を見ながら進み、一固まりの言葉(モチーフ)として把握するようになり、指は見た瞬間、楽譜を移しているような感覚で弾けるようになり、その行く末は、それがどのように組み立てられているかを読み取る。
読み取った事を確かに演奏で再現出来れば、きちんと盛り上がりもあり、曲としてのまとまりもあるすばらしい音楽になるはずです。

色々な曲の内容を読み取る事が、真の読譜だと思います。
どの曲でも、「ドレミ」だけでなく、色々な想いや曲のつくりを読み取って弾きたいですが、その準備となるのは、やはりバッハインヴェンションだと思います。

ちょうど、年齢的には小学校後半くらいでしょうか?
指も自由が利き、ピアノにも慣れ、自分の考えが指に伝わるようなになった頃に始めることが多いのではないかと思います。頭脳の上でも、学校のお勉強が小学校のはじめ頃とはまるで違うのと同じで、色々なピアノを弾くことに必要な知識も増えてきているはずです。
この頃に、今までの楽譜の読み方、知識を上手く曲の読解に使えるよう、楽譜を意識して読み取るようにして欲しいです。

インヴェンションはご存知のように、大バッハが10歳になる長男のため、作曲の仕方も学ばせようとして書いた曲です。実際には、まだたくさんの曲があったようですが、3年後の1723年に編集しなおして今の形になったようです。インヴェンションを1番から順に弾くと急に難しくなるので「おかしいな?」と思っていましたが、バッハ自身も息子のために、主和音が白鍵ばかりの、1番C,4番d、7番e、8番F、10番G、11番a・・・と進んでいったという事を知り、それ以降はその順番に弾かせています。

曲を分析する練習にとてもよいと思うのですが、特に1番には、作曲の基本を息子に教えようというバッハの気持ちがとても表れていると思います。

 

テーマを「どう発展させたり変化させたりするか」が、インヴェンションの意味だということですが、冒頭に出てくるテーマは、反対進行になったり、(5小節目からの右手を、楽譜をさかさまにしてト音記号読みをすると、テーマとまるで同じになります)拡大・縮小されていたり、もちろん違う調で現れるなど、いろいろに変化しています。
一つのフレーズや小さなモチーフがゼクエンツ(同じ形が違う音から反復される)され、盛り上がったり違う調へ進んだりします。2つの声部がずれて始まる事が多く、揃って区切りとなることが少なくなる分、カデンツはとても大切です。カデンツへ向かう部分は、初めて出てくる音型やリズムで強調してあったりします。

それらの事を考えながら、子供にも出来るよう、同じものと思われる部分にマークを付けさせています。2ページの中に、同じものが、こことここにある、同じものが繰り返されていると言う事が、目に見えてはっきりしますので、それをどう処理するかを考えながら弾きます。
マークを書くために、机の上に楽譜を持ってくるという作業も、この時期に必要なことかも知れないと思っています。頭の中で音楽を想像し、分析していく事がとても大切です。

必然的で欠かせない要素があるのに、ごく自然に作られている。
いろいろなものが絡み合っているのに、とても美しく調和している。
その後の多くの作曲家も、きっとここを基にしている気がします。私たちも、色々な曲を理解して演奏するための準備としてじっくり考えながら、インヴェンションに取り組みたいと思います。

エピソード

楽譜を読み取り弾くことが出来るようになり、急に上達したなと思う事があります。
多くの場合、バッハが理解でき、心を打つ演奏が出来た時です。
神様に捧げる音楽を多く書いたバッハの作品のメロディーは、教会音楽ではないピアノ曲のメロディーでも、本当に心を安らかにする、静かな感動があるように思います。

理解して弾いた時には、人が歌いあっているような美しい音楽となり、聴いている人にも伝わると思います。

そして、上手になった人はほとんどの人が「バッハが好き!」と言います。
良いバッハを聴く時は、生徒の成長の喜びも重なって、私の至福の時です。