053.メロディーは、山の稜線と同じ
メロディーを楽譜から読み取る時、前回までのように細かく表情を見取ることも面白いですが、今回は「大きく見ることも大切だ」というお話しをしたいと思います。
どんな表情を「表現するか?」を考えるとき、メロディーの方向や次に音が進む幅(音程)などから探る事が出来ると思っています。
大きくみると、私は、いつも山の稜線を見るように、メロディーの山や谷を見て表現のヒントにします。
音階の上行形などは,ゆっくりなだらかに登っていく傾斜の緩やかな山のようで、徐々に強くなります。 いっぽう、急激に音程が上がっているメロディーの線は、高い山のように見えますから、それなりに、意思を持って覚悟を決めてしっかり上らなくてはいけません。音は、気持ちを込めて、膨らむ事が多いと思います。
そして、メロディーを弾く時も、山の頂点を目指すとき同じです。しっかり、この音に向かっている事を認識すると良いと思います。目指す頂点がはっきりすれば、気持ちは、そこに向かってつながっていくので、大きなフレーズで弾ける事が多いです。
下がる時も、ゆっくり徐々に下がるか、急に下がるのかで、表情は違ってくると思います。
メロディーが下行するときは山を下りる時と同じように。達成感の得た後の充実した気分でリラックスしておりてくる、また、地球の重力に逆らわず、楽に降りてくるのを心がけると、よいのではないでしょうか。
急に降りる時には、ドスン!としりもちをつかずスマートに下りるように。だんだん緩やかに下ってくる時には自然に身を任せるように、レガートにdim.しましょう。
激しく上がったり下がったりするところは、実際の山登りでも大変だと思います。必死で「ハーハー息を切らせながら」のようなイメージがそのまま、曲の中では激しい表現になるのではないでしょうか?
(メロディーの)頂点が1点ではっきりしている時、頂点に達してなだらかで頂点が長く続く時があります。前者では、その音を光らせるように弾き、後者は、頂点に達した感動が持続するような気持ちで弾くとマッチする事が多いです。
メロディーのラインを見るとともに、それがどんな「まとまり」になっているか、スラーを見ることによって、自分なりにフレーズを把握しようと考えることで、表現豊かな演奏になると思います。
山の稜線が自然で美しいように(特に夕方に見えるシルエットは美しいですよね)、メロディーのラインも自然に膨らんだり収まったりしながら、美しく表現したいものです。
我が家は前面に海、後ろには山があり、贅沢にも美しい自然の中に住んでいます。 空気がよく、鳥も来るし、バッタやムカデとも仲良しです。
高台の突端に位置するため、この文章を書いている今まさにすごい吹きさらしの風で、家が飛ばされてしまいそうですが、「こういう激しさも曲の中にはあるな!」と思います。
山を見て稜線を、海を見てその広さや豊かな青い水をステキだなと感じ、青空の広さが気持ちよいと思ったそのすぐ後には、どんよりとした不気味な雲が広がり、山の稜線が霧でふんわりしてきました。まさに、一曲の中のドラマのような自然を感じています。
自然と同じように表現できたら、美しく変化に富んだ演奏になるのかもしれませんね。
昔、コンクールに臨んで思いがけず結果が思わしくなかったその帰り、生徒と車に乗っていて、美しい真赤な夕焼けに出会いました。「こんな風に美しい風景を音に出来るといいね!」と生徒慰めました。悔しさとともに忘れられないワンシーンです。