ピティナ調査・研究

043.表現と「センス」

100のレッスンポイント

 「心から表現する」「感じるままを大切に表現する」など、ピアノという楽器を使って曲を演奏する楽しさを書いてきました。

 「自分はこう感じた。これを伝えたい」というのが表現の源だと思います。

 少しオーバーに、はっきり表現しないと、他人には伝わりにくいということも述べました。

 

 しかし、自分の感じたことを伝えて、人は感動してくれるのでしょうか?

 そこにはいわゆる「センス」が必要だと思います。
 センスを磨く事がとても大切になります。

 たとえば「曲のどの部分もステキだ!」「どの音にも魂をこめて!」と思う気持ちは分かりますが、全ての音を同じ想いで演奏してしまっては、曲のクライマックスに達した時にはエネルギーが尽きてしまっているかもしれません。
作曲者の一番言いたいところをはっきりと把握し、いかに盛り上げていくか?クライマックスの効果を最大限に活かすためには、その前に何をすべきか?そのように考えるセンスも必要です。

 

 ピアノはよくオーケストラに例えられます。音を重ねて出す事が可能で、メロディーも伴奏も一人で演奏できます。違う音量、音質を同時に出すことができますが、それらを組み合わせるセンスがないと、とてもわかりにくい音楽になります。
 ハーモニーの中でどの音を一番際立たせるか?そのやり方によって随分響きや美しさが違います。

 ポリフォニーの場合、テーマと対旋律のバランスが大事です。常にテーマばかり強くてもどうでしょうか?対旋律も聴かせるところも時には効果的でしょう。バスのラインが太く鳴っていると、とても心に響く事がありますが、バランスを欠いてそこだけが大きく聴こえても、不自然なことがあります。
 自分の指をコントロールして、絶妙なバランスを作り出さなくてはなりません。

抽象的で、しかも一瞬で通り過ぎていくのが音楽です。「一瞬のうちにわかる」ように演奏することも必要だと思います。「明るさ」対「暗さ」、「はっきりした音」対「柔らかい音」、「男性的」対「女性的」、「強い音」対「弱い音」などさまざまな対比をつけることは、とてもわかりやすく、伝わりやすい表現です。どんな対比が最もふさわしいか?それを決めるセンスも必要でしょう。

 それらのことをすべて考慮しつつ、自分の出している音を聴き取り、調整して演奏していきます。常に自問自答し、反省し、演奏を立て直して次に最良の音を出そうと努力する、という作業をすべての瞬間で行い続けるのが、演奏と言うものでしょう。
 その上で大切な事が、そのように神経を使いながらも、自分の出す音に感動して良い気持ちになるということです。(テクニックの(1)参照)
 しかし一方で、自己満足に陥ることなく、常に美しさに対する「センス」を磨かなくてはならないと思います。

 美しさに法則はありません、経験により、美意識は養われます。
 また、生理的に美しいと感じる音というのもあると思います。
 そして私は「美しさに上限はない」と、常に言い続けています。「ここまで」と決めてしまったらそれ以上にはなりませんが、「常にもっと美しく」と願い続けることで、可能性も限界がなくなります。

 経験とともにセンスを磨きましょう。
そのための努力を重ねて演奏した時、それは、きっと他の人にも伝わるはずです。

エピソード

ヨーロッパを旅していた時、偉い彫刻家の先生が、ある作品を見て、「良い作品には、よく作りこんである部分と、そうではなく大胆に、大まかに作ってある部分とがあるものです。そのことによって、作者が作品で言いたいことがより伝わるものです。」と、おっしゃいました。
そのとき「芸術と言うのは美術も音楽も変わらないのだ。音楽もまさに同じだ!」と感動したことを思い出します。

その音楽が好きなら「これでもか!」と、頑張って聴かせたくなるものですが、心地よく、眠くなるような平和な美しさと、力のこもった部分が混在してこそ、「言いたい事がより強く伝わるのかな?」と、思ったりします。

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