ピティナ調査・研究

033.基本は2音のフレーズ

100のレッスンポイント

 表現力ある演奏をするためには「フレーズを見る事が大切」と前回述べました。実際に音楽を作っていくには、「2音のスラーの弾き方」をマスターする事が基本だと思っています。

 スラーのおしまいは、怒ったように強くならず、やさしくそっと離します。

 2つの音を弾く時には、最初の音に重みが乗り(鍵盤の下までぐっと入り)ます。2音目はやさしく弾き、その後重みがだんだん取れていくように鍵盤をゆっくりと持ち上げていきます。決して、弾いた瞬間にぷつんと離したりしません。2音は一連の動きとなります。最初の音にはやや力が加わり、2音目は緩むという感じでしょう。
 声にたとえると「あー(あ」」とか「ねー(え)」などと、言い直さない、母音を伸ばす音の感じです。「ため息」に例えることもあります。
 2音の弾き方ができるようになると、最後の音をよく聴き、大切にするようになります。
 先のことも考えながら耳は音の行く末まで聴いている。
 それが大事です。

 ここまでできるようになると、ちょっとした表情が聴こえてくるはずです。何も考えずに弾き、フレーズを乱暴に処理するのと大きな違いです。
 長く音がつながる場合でも、そのフレーズの最後の2音を同じように心を配って弾くだけで、そのフレーズ全体が表情豊かに変わる事があります。

 2音を聴き、丁寧に処理する事が、表情ある演奏を目指すための「初めの1歩」です!

 フレーズを大切にするためには、最初に区切りを見つけます。
 そのためには「スラー」を見ます。
 小さい子には、スラーへの注意を促すため、ともかくスラーの最後の音は弱く(丁寧に心を配ってと言うことですが、小さい子だと「弱く」と具体的な指示のほうがわかりやすいので)させます。
 そして、その音をやさしく離すようにします。
 この一連のことを習慣づけるだけで、随分、演奏に表情がでます。

 

 まず2音について考えるのが「集中して動作ができ、聴ける」という点で無理がありません。
 逆に言うと、2音ですら聴けない、表現できない人は、長いフレーズも当然聴けませんので、音を並べただけの演奏になりがちです。

 短くゆっくりでも表情のある演奏と、そうでない演奏があります。音の少ない初歩のうちから、表現力のある演奏ができた方が良いと思います。

 音がたくさんになるほど表情はつけやすくなる「気がする」のですが、早くなると、勢いに圧倒されたり、弾くことに必死になって表情の有無に意識が行かず、弾き飛ばす演奏に良く出会います。「弾いていることに満足」という感じでしょうか。
 「2音のフレーズ」を元に、どんなに簡単な曲も、難しい曲も、どの段階でも表情のある演奏を目指したいものです。常に「基本は同じ」です。

エピソード

その1

バスティンメソッドで初めてフレーズを習う曲「風のおばけ」で、幼稚園の子供たちが「風のおばけ大会」をします。誰が一番怖いか?皆、真剣にその気になって怖そうに弾いてくれます。
 フレーズの最後の離し方は、まさに、おばけの手の形!音も余韻が残ります。
 たった13個の音ですが、とても大切な曲です。

エピソード

その2

 

「フレーズの最後への配慮」を徹底できた例をご紹介します。
 ある生徒がはじめてハノンを弾いた時のことです。
 第1番の最後の小節「ソミレドシドレミド」のところで、まさにラスト2音「ミド」が、「2音のフレーズ」でご説明したとおりにディミヌエンドして、最後の音をゆっくり響かせ、その後満足げに、丁寧に鍵盤から指を離しました。ハノン1番が名曲に聴こえました。
 その生徒は高校卒業後ドイツに渡り、1年ドイツ語の勉強をして音大に合格し、この9月より本場で学ぶ夢をかなえました。