ピティナ調査・研究

032.表現の基本はフレーズ

100のレッスンポイント

 ピアノを使って自分の気持ちを表現するのが「ピアノを弾く」ということ。

それが楽しい行為だというようなことを前回述べましたが、具体的に、表現力のある演奏とは?

 作曲家が作った曲を表現するのですから、演奏する人が言いたい事をただ並べるのとは少し違います。役者が、台本をもらい、その役になりきって表現していく(演技する)事と似ています。その場合は台本が日本語ですから、表すべき感情をすぐに理解でき、表現につなげやすいと思います。

 音楽の場合は、日本語ではなく音符です。日本語は最初「あいうえお」から覚えます。でも母親が「これは『あ』ですよ、覚えなさい!」などといって教えるわけではありませんよね。「アヒルさんの『あ』よ」というように、「単語」とあわせて覚えていきます。音楽でも、たくさんの音の集まりであるモチーフが、日本語の単語にあたります。モチーフを使い慣れることで上手に「表現」できるようになるのだと思います。

 音楽上の言葉や、文章を考える時大切なのが、言うまでもないくらいですが「フレーズ」です。
英語の文章を読む時に、単語ごとのスペースがなかったら、とても読むことは難しいですよね。英文内のスペースや、ピリオドにあたるものが、スラーです。

 スラーによって、ようやく、表情が見えてきます。

 スラーや休符があるのに、そのままつながってしまうような、ただ、音だけが鳴っているような演奏は棒読み状態。役者なら「大根役者!」ですね。(笑)

 たとえば、「蝶々、蝶々、菜の葉にとまれ」をピアノで、「ソミミー、ファレレー、ドレミファソソソー」と弾くのと、「ソミミーファレレードレミファソソソー」と弾くのは、まったく違って聴こえるはずです。前者だと、蝶々は飛んでいるように聴こえますが、後者だと?重くて飛べない感じがしませんか?
二種類の弾き方を聴かせたうえで、生徒に「同じに聴こえる?」という質問をしてみます。もちろん「同じに聞こえない」と認識ができます。「どちらがよいと思う?」という質問をしても、「最初の弾き方」と答えてくれます。

 それなのに「どうして自分が練習している曲を弾く時には無頓着なのかな?」と思うこともあります。
 私の使っている、バスティンの教材では、5線譜を読んで曲を弾くことになる最初の段階で、フレーズ区切りのことについて、学びます。
一音一音の区別をするだけではなく、それぞれの音がまとまると「どんな言葉で、どういう感じの話しになるか?」と、話し言葉と同じように考える習慣をつけます。そして、役者のように、伝えたい気持ちを加えてピアノで弾いてくれると、更にステキな音楽が表現できるようになるはずです。

エピソード

 フレーズの話は、よく先生方向けの講座でもしています。
フレーズや、言葉の取り違えをしないように「子供に自分の名前を書かせて、違う区切りにして、それがおかしいことをわからせると、効果的ですよ」と説明します。たとえば、「『まえだまりちゃん』が『まえ、だまり!』だと変でしょ?」とか。
 実在の前田真理ちゃんは「私は、小田君とは結婚しない、『おだまり!』になるから『水田くんともしない、みずたまり!』だから」と言っていたそうです。この教え方は、フレーズをつなげてしまう子に効果的です。
 とある講座で、一番前の先生にお名前を聞いて同じように「変な区切り」の説明をしたのですが、その時の先生は「小西清美先生」という方でした。「こにしき、よみ、先生」とお読みしてしまって、会場は爆笑でした!先生がスマートでいらしたのが救いでした。(笑)

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