ピティナ調査・研究

022.美しい音

100のレッスンポイント

ピアノにも、ヴァイオリンなどと同じく一台ごとに個性があり、同じ音の楽器はありません。

 大きなピアノはやはり素晴らしい音です。ホールに置かれているコンサートピアノは、家が買えるくらいの価格です。そのような立派な楽器が、音楽と良く共鳴するように設計されたホールに置かれているのですから、申し分なく、良い音がします。

 私の生徒は、ホールで弾くのが大好きです。

 ある生徒が「私、ホールで弾くのが大好き!」と言いました。その子はまだそのような違いを考える段階には達していないと思っていましたので、ちょっとびっくりしましたが、うれしくなって、他の生徒にも伝えました。すると「僕だってホールが大好き!」と、何人もが言うので、なおさらびっくりしました。子供たちは素直に「ここで弾くと自分の音がきれいに聴こえるから気持ちよい!」と思っているようです。

 毎日、ホールで美しい音を聴きながら、練習できたらどんなに幸せで、どれだけうまくなるでしょうか?

 そうすれば、本当にピアノは上手くなるのです。自分の出した音を「素敵だ」と感じ、それをもっと出したいと思うのが、最も大切な、音作りの秘訣ではないかと思います。

 しかし、現実的には、毎日、ホールで弾けるわけもないですね。

 そこで、日常的にできることとして「同じピアノで、他人が出す音を聴く」という体験を重視しましょう。

 先生が弾いてくれる音、お友達が弾く音、一人一人皆違う音がでます。

 「はっ」とした事はありませんか?何故同じピアノなのに、あんな素敵な音がでるのかな?と、思った時。でも、同じピアノなのだから、どうしたらその音が出るのかと考え、自分も、聴こえた音を出してみようと思えば良いのです。

 私は、恩師の武田宏子先生の出される音を「いつもきれいな音!どうしてそんな音がでるのかな?」と思っていました。不思議でした。真似はできませんが、単純にあこがれていました。私の出す音も、生徒に「きれいな音」と思われていれば良いのですが。

 ともかく、身近で美しい音を聴く経験がたくさんあり、それを自分でも出したいと思う事がとても大事です。

 そして自分の出した音を「素敵!」と思えれば、幸せな時が過ごせます!

エピソード

昔々、私がインヴェンションを弾いていた頃です。音楽家の叔母(専門はピアノではなく、作曲・指揮でした)が来て、私の使っていたアプライトピアノでインヴェンションを弾いてくれました。それがとても柔らかな美しい音で、びっくりしたことを覚えています。

 考えてみれば、普段自分が使っているピアノを他の人が弾く機会は、あまりないですね。もしかするといつものピアノで、まるで違う、美しい音がでるということを知る機会は、珍しいのかもしれませんね。

「美しい音」とは定義できない抽象的なものです。しかし一瞬で消えるにもかかわらず、記憶には一生残る「音」もあるのです。