こどものためのJAPANピアノ作品集8-2: 湯山昭作曲 『こどものせかい』 特集2
前回ご紹介させていただいた、湯山昭先生作曲『こどものせかい』(カワイ出版刊)。今回はその中から9曲を、音源つきでご紹介させていただきます!
こどもの手でも無理なく弾けるように、'オクターヴなし'にこだわって書かれたこの『こどものせかい』。難易度は、「バイエルからソナチネ程度」です。オクターヴを使わずに、それでもさまざまなテクニックを用いて、彩り豊かな作品が34曲詰まっています。ここでは各曲を、「★」 =バイエル後半から終了程度、「★★」=ツェルニー30番前半程度、「★★★」 =ツェルニー30番後半からソナチネ程度、の3段階に分けて右のとおり表にしました。
湯山先生の作品には、思わず微笑んでしまうようなチャーミングな曲がたくさんありますが、その仕掛けのひとつに、リズムの魅力があるように思います。例えば、第6番「ににんさんきゃくってむずかしい」(★)では、題名をそのまま音で描いたような面白さがシンコペーション的なリズムで、また第1番「やくそく」(★★)では、ウキウキする気持ちが軽やかな16分音符のリズムで表現されています。また第22番「てんぐのうちわ」(★★★)では、迫力ある左手のビートがどんどん勢いを増し、最後にはまるで拍子がずれたかのようなヘミオラのリズムが登場します。
弾く人は、特徴的なリズムのところでついテンポが揺れてしまいがちですが、あくまでも冷静に正確なリズムを刻むことで、作品本来のリズミックな魅力を聴く人に伝えることができるでしょう。
思わずウットリしてしまうような、美しくてどこか懐かしいメロディーラインも、湯山先生の作品の特徴ですね。今年のコンペA1級課題曲にも含まれる第2番「おやつのじかん」(★)では、湯山先生ご自身も'課題曲アドバイス'で書かれているとおり、右手・左手各々のかわいらしいメロディーが、表情やバランスを変えながら仲良く曲を形作っています。また第11番「ぼくのゆめ」(★★)では、語りかけるようなメロディーを右手がルバートを効かせながら歌い上げ、第31番「ゆきのふるひのオルゴール」(★★★)では、胸がキュンとなるようなメロディーが左右順番に奏でられます。
スラーを意識し、レガートを徹底することはもちろん、音程の跳躍や臨時記号が付いた音に特に気持ちを込めることで、この宝石のようなメロディーの数々を、聴く人の心に届けることができるでしょう。
そしてなんといっても、思いがけない転調やハーモニーこそが、湯山作品の醍醐味といえましょう。第8番「ゆうぐれ」(★)では、左手の繊細なハーモニーの移り変わりがどこかせつないゆうぐれを描き出し、第20番「わらべうた」(★★)では、左手の純和風な和音が1曲通して淡々と貫かれます。また第33番「エコセーズ」(★★★)では、これぞ湯山節!といった意外な転調が、ポリリズムなどリズム的な盛り上がりと共にパッと現れ、クルクルといろいろな場面が展開されます。
ハーモニーや転調の感じ方は人それぞれ...。その分、表現の方法にもいくらでも可能性があります。そんな感覚や表現を磨いていくことで、湯山節の魅力を存分に味わい、その魅力を十分に伝えることができるでしょう。
以前、湯山先生にインタビューさせていただいた中で、先生のこどものための作品には、一人で過ごされることが多かった子ども時代の記憶が込められている、とのお話を伺いました。この作品集にも、こどもの純粋な気持ちや素直な感覚が、そのまま作品となって収められているように思います。弾くだけで心が躍ったり慰められたり・・・。こども時代をまさにいま生きている子どもさんはもちろん、遠い昔にこども時代を終え、今は自分の子どもや生徒さんたちと向き合う私のような大人にとっても、心に寄り添ってくれる貴重な作品集だと、改めて感じています。