こどものためのJAPANピアノ作品集8-1: 湯山昭作曲 『こどものせかい』 特集1
今回ご紹介する作品集は、湯山昭先生作曲『こどものせかい』(カワイ出版刊)です。2012年度のピティナコンペティションA1級の課題曲にも、この中の一曲「おやつのじかん」が含まれていますね。湯山先生といえば、『お菓子の世界』や『こどもの国』などのピアノ曲集や、「おはながわらった」や「あめふりくまのこ」といった童謡など、こどもの感性を豊かにする作品を多く書いていらっしゃいますが、この『こどものせかい』も例外なく、思わず微笑んでしまうような魅力的な作品のオンパレードです。ぜひレッスンにて、ご活用ください!
湯山先生のピアノ作品集には、この『こどものせかい』の他に、『こどもの国』や『日曜日のソナチネ』(音楽之友社刊)、『お菓子の世界』や『音の星座』(全音楽譜出版社刊)、『小鳥になったモーツァルト』(カワイ出版刊)、そしてピアノ教則本『こどもの宇宙』や『ピアノの宇宙』(全音楽譜出版社刊)があります。中でも特に、手の小さいこどものために、オクターヴ奏法を使わずに書かれた最初の作品集が『こどもの国』で、その後、音域に制限を設けず書かれた『日曜日のソナチネ』や『お菓子の世界』を経て、10年後に再びオクターヴなしで書かれたのが、この『こどものせかい』でした。
「日本人の感性を豊かに盛り込んだ、日本人の手によるピアノ作品の誕生を、しきりに考えていました」と、初版のまえがきにて湯山先生ご自身が語られているとおり、この曲集には、日本のこどもたちが体験するさまざまな場面や気持ちが、34曲の作品となって詰まっています。右側の表のとおり、題名にも「おでかけするひ」「どうして?」「おねだり」などイメージしやすいものが多く、また「わらべうた」「お琴のひびき」といった和風の作品もいくつか含まれています。難易度は、「バイエルからソナチネ程度」。オクターヴを使わずに、それでも手の交差や拍子の変化などさまざまなテクニックを用いた楽しい作品が、こどもたちの日常生活を綴っていきます。
以前この連載で、湯山先生ご自身にインタビューをさせていただきました(記事へ)。その中で先生は、一人で過ごされることが多かった子ども時代を振り返られ、その頃の記憶がこどものための作品につながっている、とのお話をしてくださいました。芸大に進まれ、日本音楽コンクールで入賞されるなど、エリート作曲家としての道を歩まれつつ、その確かな技術をこどものための作品にも全力で注ぎ込まれ、数々の名曲が生み出されてきました。この『こどものせかい』についても、「遥かな少年時代への賛歌」と湯山先生は位置づけられています。
湯山先生のこどものための作品の魅力を音楽的に分析すると、先生ご自身も初版まえがきにて書かれているとおり、「さまざまなリズム」、また「現代的な和音の響きや日本の音の美しさ」、そして「転調がもたらす色彩の変化」といったことが挙げられるでしょう。例えば3拍子の中に現れる2拍子的なリズム(ポリリズム)、またどこか懐かしさを湛えた童謡的なメロディーや、カーンと響く気持ちのよい不協和音、そしてドキッとするような意外で美しい転調など...。これらが巧みに組み合わされ、魅力的な'湯山ワールド'を形作っていると言えましょう。
次回は、音源を交えながら、個々の作品についてご紹介させていただく予定です。どうぞお楽しみに!