ピティナ調査・研究

こどものためのJAPANピアノ作品集7: 田中カレン作曲 『地球』 大解剖!

ピアノ曲 MADE IN JAPAN
楽譜

今回特集させていただく作品集は、今年6月にカワイ出版より出版された、田中カレンさん作曲『地球』です。田中さんのこどものためのピアノ曲集といえば、同じくカワイ出版刊の『星のどうぶつたち』『光のこどもたち』が、仲道郁代さんのCDによってもよく知られていますね!新作『地球』には、図らずも今の日本が直面している自然の威力や安全なエネルギーが、絶滅の危機に瀕したゾウガメのジョージとともに、丁寧に描かれています。田中さんならではの洗練された音楽性が、一層のポップさを伴って内包された、とても魅力的な1冊です。

田中カレンさんとは

田中カレンさんは、現代の日本を代表する中堅世代の作曲家です。その作品は世界各地で演奏され、特にピアノ曲にはこどもから大人まで多くのファンがいます。青山学院を中退後、桐朋学園にて三善晃氏に師事、その後パリに留学され、現在はカリフォルニア芸術大学にて教鞭を取られる田中さん。数々の作曲賞を受賞された、現代音楽界のいわばエリート的な存在でいらっしゃいますが、その透明感と躍動感に満ちた音楽は、現代音楽という分野の難解さを通り越して、多くの人々に愛される魅力を放っています。

現代を生きる作曲家

田中さんの音楽が愛される理由には、もう一つ、扱われるテーマの魅力があるように思います。2年ほど前に、この連載でも田中さんにインタビューさせていただきましたが、その中で、「今自分が生きている時代から出てくるものを作らないと」、というお話を伺いました。時代や社会にフィットした、開かれた作曲家の在り方を感じます。今回ご紹介する『地球』は、前作『光のこどもたち』の続編として、同じく地球環境保護という昨今の地球規模のテーマのもとに作曲されました。そこにさらに、今最も話題になっている自然エネルギーをテーマとした作品が図らずも含まれていたことに、田中さんの鋭い先見の目を感じずにはいられません。

『地球』の魅力

さて、そうした鋭いテーマ性をもつ『地球』ですが、まず印象的なのは表紙の絵でしょう。色々な動物たちが地球の球体の上で楽しげにダンスしているこのかわいらしい絵は、イギリス人イラストレーターのティファニー・ピークさんが書かれたもの。うちでも、ピアノの上にこの楽譜を置いていたところ、多くの生徒が「これ、なに?」とまず興味を示していました。

目次には、15曲の題名が並びます。「海」「グリーン」「マグマ」といった自然の情景を表す題名の中に、「太陽エネルギー」「風力エネルギー」といった発電系の題名や、間奏曲という副題をもつ「ひとりぼっちのゾウガメ・ジョージ」シリーズが挿入されていて、興味をそそられます。15曲が、まるでひとつの物語のように末広がりに並んでいるところも、また魅力的です。

その後、「この曲集に使われている音楽用語」というコーナーが続きます。その中の「各曲の発想用語」欄には、「青い海と水面に輝く光を思いながら」、「重くなく、空中に浮かぶような気持ちで」、「アフリカのマリンバやドラムのように」といった、美しく具体的な様々な表現が並びます。視覚的、感覚的イメージを、作曲者が大切にしていることが伝わってきますね。 そしていよいよ、「海」から「地球」にいたる15曲の物語が始まります。

『地球』の使い方

カワイ出版のこの楽譜のHPには、グレード「初級から中級」とありますが、どちらかというと中級レベルの曲が多いように思います。全体的に16分音符等の速い音符が多い印象がありますが、同じ音型やフレーズの反復も多く、見た目の印象よりは弾きやすい曲が多いでしょう。ノリの良いリズムや反復によるグルーヴ感、またメロディーやハーモニーの美しさ、分かりやすさもあり、現代曲的なエッセンスを持ちつつも、ニューエイジやヒーリングミュージック等に近い雰囲気も感じられます。

そのような点から私は、小学校中学年(進度が速い生徒さんは低学年でも!)から中学生ぐらいの、基礎力を身につけて、そろそろ速い曲やポップな曲を弾きたくなった生徒さんに、この曲集をオススメします。その年頃になれば、テーマとなっている地球環境や自然エネルギーについても、少なからず理解できることでしょう。また、この楽譜には指使いが書き込まれていないのですが、先生と一緒にそれを考える力も備わっているように思います。

今回も全15曲を、テクニック的な難易度順に以下3つのレベルに分類させていただきました。

表

「★」
バイエル後半?終了ぐらい

「★★」
ツェルニー30番前半ぐらい

「★★★」
ツェルニー30番後半以上

次回以降は、全曲の音源動画とともに、各レベルごとに3回にわたって詳しくご紹介させていただく予定です。どうぞご期待ください!

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