ピティナ調査・研究

こどものためのJAPAN4-1:三善晃作曲『海の日記帳』 初級編

ピアノ曲 MADE IN JAPAN

前回ご紹介した、三善晃作曲『海の日記帳』


難易度「★」から「★★★」まで全28曲のうち、今日は初級者向き(「★」=バイエル100番ぐらいまで、音楽的にも比較的表現しやすい)9曲を、音源とともに1曲ずつご紹介させていただきます!


初級者向きとはいえ、調号が多いものも含まれます...。その点は、バイエルを弾いている子にとっては、まず最初の難関かもしれません。


普段弾けない黒い鍵盤をたくさん弾ける!と前向きに促し、1オクターブ分だけでも音階を覚えてもらう、また譜読みの段階で黒鍵の音に〇をつけてもらう、など工夫しながら、調号が少ない普段の曲との響きの違いを、なんとなくでも感じとれるといいですね。

写真
メロディーが心に…

各曲とも、演奏時間は1、2分。転調も比較的分かりやすく曲中1、2回、近親調の範囲で展開します。テンポも、大部分がゆったり目。普段の教材にプラスして、少し時間をかけて弾いていると、いつの間にかそのメロディーが心に棲み始めるのを感じられるでしょう!


メロディーが心に棲み始める...。ピアノを弾いていて楽しいのは、まずはそこだと私は思います。その点三善メロディーはどこか人懐っこく、思わず口ずさみたくなるものばかり...。特に、今回の初級編の曲は、わらべうたや童謡と同じ音使いの曲も多く、こどもにとっても、弾けてしまえば宝物になるような作品が多いでしょう。

各曲ご紹介

楽譜の巻末には、作曲者自身による「練習のてびき、演奏のための助言」が添えられています。ここではそこで語られている以外に、まず曲中の【転調】について記しました。また、主にどのようなテクニックを伸ばせるかについて、《レガート》《リズム》《ハーモニー》の3種類に分類してみました。音源とともに、選曲の参考にしていただければ幸いです!

演奏:須藤 英子

第1番 海のゆりかご 【C-dur】 
《レガート(2声)》


C-durの大きな流れの中で、左手と右手が掛け合いながら、だんだん波が大きくなり、そして消えていくような曲。左右各々の音程の開き方に注意しつつレガートで弾くと、波の変化がよく表せます。

演奏:須藤 英子

第2番 浜かぜと夜明け【g-moll→G-dur】
 《レガート(2声)》


題名のとおり、g-mollからG-durへの同主調転調により、'夜が明ける'曲です。テヌート付きの右手の風と、テヌートなしの左手の風が掛け合いながら...、durをむかえて右手は光に変身でしょうか...。

演奏:須藤 英子

第3番 うつぼの時計 【As-dur→E-dur→As-dur】
《レガート(2声)》


少しジャズっぽい雰囲気もある、大人な曲。途中♭4つ→♯4つへ転調する部分では、いったいうつぼに何がおこったのでしょう!唯一のフォルテが登場するここE-durは、イメージの膨らませどころです。

演奏:須藤 英子

第4番 おやすみ,夕映え 
【Des-dur→(右ページ1段目)es-moll→(2段目)Des-dur】
《ハーモニー》


C-durの大きな流れの中で、左手と右手が掛け合いながら、だんだん波が大きくなり、そして消えていくような曲。左右各々の音程の開き方に注意しつつレガートで弾くと、波の変化がよく表せます。

演奏:須藤 英子

第5番 浜百合の恋
 【c-moll→(3段目)Es-dur→(3段目)c-moll】 
《レガート(2声)》


右手と左手が短調で駆け引きする、大人な恋...。別れ話かもしれません。途中、平行調Es-durに転調しますが、そんな明るい話題も一瞬に、すぐまた暗い話へ...。最後は、右手の言い分を左手が繰り返して終わります...。

演奏:須藤 英子

第6番 やどかりのひっこし 
【A-dur→(3段目)fis-moll→(5段目)A-dur】
 《レガート(2声)》


曲集中、数少ない'愉快な'雰囲気の曲。スラーとテヌートに気をつけることで、やどかりがヨッコラドッコラ引越ししている様子が目に浮かんできます。平行調fis-mollの部分は、多分引越し途中に何かむずかしいことが起こってしまったのでしょう。

演奏:須藤 英子

第7番 大きな貝のひるね 【g-moll】
 《ハーモニー》


転調はないものの、ハーモニーが大きく半音階で下降していくことで、調性感が薄らいでいくような曲。大きな貝が、ウトウトウトウト...と眠りに落ちていき、右手にハーモニーか移るところでハタと目ざめ、もう一度ウトウトウトと...。

演奏:須藤 英子

第8番 波がふたりで...... 
【a-moll→(4段目)C-dur→(5段目)a-moll】
 《レガート(2声)》


a-mollを謳歌(?)している曲。波がふたりで...世間話といった感じでしょうか!途中のC-durはやはり一瞬で、すぐにまたもとの話題に戻ります。右手が何度も繰り返すテーマに、左手は相槌を変えつつ根気強く付き合います。

演奏:須藤 英子

第15番 沈んでいった鍵盤
【e-moll→(3段目)G-dur&e-moll→(右ページ3段目)e-moll】
《リズム》


シンコペーションのリズムが、しっとりと絶え間なく繰り返される曲。中間部で平行調のG-durが、現れては消え、現れては消え...。最後の上行形は、沈んでしまった鍵盤からの泡ぶくでしょうか...。