こどものためのJAPANピアノ作品集4: 三善晃作曲『海の日記帳』 大解剖!
ピアノレッスンの現場で、日本の作品を気軽に使っていただきたい・・・という想いから、日本人作曲家の作品集をご紹介する「こどものためのJAPANピアノ作品集」。第4回は、三善晃作曲『海の日記帳』です。美しい作品がたくさん詰まったこの曲集。私はよく、発表会で使わせていただいています。クラシックの名曲が多くなりがちなプログラムの中で、素敵な題名が付いたセンス良い三善作品はキラリと目立ち、親御さんにも大好評です!
『海の日記帳』とは
作曲者の三善晃(みよしあきら)先生(1933-)は、日本を代表する作曲家。特に合唱曲とピアノ曲の分野で、圧倒的な人気を誇っていらっしゃいます。どこか懐かさを秘めたメロディーラインと、それを包む美しいハーモニーからは、日本的な情緒と、留学先フランスの感性の両方を感じずにはいられません。近年では、「Miyoshi ピアノ・メソード」の開発や、「三善晃ピアノコンクール」の開催など、ピアノ教育にも力を注がれています。
『海の日記帳』は、三善晃先生48歳のときの作品。こどものための作品集としては『音の森』(1978)に続いて2作目にあたります。「好きな海のイメージを拾って書いた」と記されている通り、海にまつわるユニークでロマンチックな題名が付いた28曲の小品から成っています。
感受性を培う
出版元の音楽之友社のHPには、「グレードは、バイエル半ばよりチェルニー30番前半まで」とありますが、全体的にもう少し難しい曲が多いように私は感じます。確かに、テクニック的にはバイエル後半からツェルニー前半の技術でも何とか弾けるものが多いですが、音楽的には相当な感受性が必要とされる...。譜面通りに音を並べるだけでは、なかなか音楽にならない曲が多いのです。
バイエルやツェルニーなど、ピアノの基本技術を身につけようとする初期段階の生徒さんに対しては、私など、とかくまずは譜面通りに音を並べることができれば次の曲へ...、となりがちなのですが...。大きな目で見れば、初期段階でこそ音楽的感受性を育てるべきですね。いくら難しい曲を弾けても、感受性が伴わなければ、曲を心からは楽しめない気がします。
調性感の大切さ
三善作品では、様々な美しい転調を感じ取る調性感が特に大切です。それも、音楽史的に言えば、「古典派」までの定型通りの転調ではなく、「ロマン派」以降のハッとさせられるような意外な転調感が...。「現代」の作品ですから、当然のことかもしれませんね。
その点、三善晃先生が開発された「Miyoshiピアノメソード」(全12巻)は、初期の段階から無理なく調性感を育てる様々な工夫がされています。例えば、「同じ調性記号の長調と短調のまざる練習曲」や、「イ長調の音階奏練習曲 窓の春」「嬰ヘ短調の音階奏練習曲 窓の秋」など...。楽典問題的な調性判定能力というよりは、雰囲気やイメージといった感覚的な調性感と言えるでしょうか。
『海の日記帳』の使い方
ただ、これまでの教材に代わって「Miyoshiピアノメソード」を使うには、少し勇気がいりますね。そんな時こそ、この『海の日記帳』の出番です!これまでの教材の延長線上で、感受性を培うために使用する...。そのためには、最高の教材だと思います。
ここでは、全28曲を3つの難易度に分類してみました。難易度といっても、テクニック的な難しさだけではなく、音楽的な難しさも加味しています。
「★」=バイエル100番ぐらいまで、音楽的にも比較的表現しやすい曲
「★★」=チェルニー30番前半ぐらいまで、複雑な転調を感じ取る音楽的センスが求められる曲
「★★★」=ツェルニー30番後半以上、高度な読解力と音楽性を要する曲
各レベルのオススメ
今日は、これら28曲の中から、各レベルのオススメ作品(私が好きな作品、かもしれませんが...)を、以下、動画でご紹介させていただきます!なお次回以降は、各レベルごとに、全曲詳しくご紹介させていただく予定です。どうぞお楽しみに!
「★」オススメ作品 第8番 波がふたりで
演奏:須藤 英子
「★★」オススメ作品 第13番 あこや貝の秘密
演奏:須藤 英子
「★★★」オススメ作品 第28番 波のアラベスク
演奏:須藤 英子