こどものためのJAPAN4-2: 三善晃作曲『海の日記帳』 中級編
三善晃作曲『海の日記帳』大解剖第3弾の今回は、前回の初級編につづき、中級編(「★★」=チェルニー30番前半ぐらいまで、複雑な転調を感じ取る音楽的センスが求められる)10曲を、ご紹介させていただきます!
このレベルは、ある程度譜読みが速く正確にでき、ピアノを弾く楽しさを実感し始める時期かと思います。今回ご紹介する10曲は、様々な点で、チェルニーやソナチネなど普段の教材ではなかなか出てこないものを体験することができます。例えば、絶え間ない拍子の変化、思いがけない和音、クルクル変わる調性...。 初めはどうしても、弾きにくさを感じてしまうかもしれませんが、それを救ってくれるのが、愉快な題名たちでしょう!なぜここでリズム感が変わるのか、変わった響きが出てくるのか、全然違う雰囲気になるのか...。それら不思議な現象を、題名に結びつけつつ自分なりに納得して弾くこと、それはきっと普段の教材に戻ったときに、豊かな想像力となって生かされていくことでしょう!
そんな想像力を生徒さんに鍛えてもらうためにも、最初は先生が積極的に、拍子やハーモニー、調性の変化を示唆してあげると良いでしょう。そうして培った感性が、やがて自分で変化を感じ取り、表現へと結びつけていく音楽性へと発展していくように思います。以下、前回同様、曲中の大きな【転調】と、テクニック的な《特性》を記しました。音源とともに、選曲の参考にしていただければ幸いです!
第9番 やどかりの波のり(サーフィン)
【G-dur→(左ページ5段目)e-moll →(右ページ2段目)G-dur】
《リズム》
時々手の交差を含む、リズミックな作品。やどかりが、波に乗ろう乗ろうとしてイマイチうまくいかないような、9/8拍子のリズム感。最後に6/8拍子に変わる辺りでいったん諦めモードになった後、ふともう一度挑戦したら、あららふわりと波に乗れました!といった感じの、最後に山場がくる曲です。
第10番 シシリー島の小さな貝がら
【h-moll→(左4段目)e-moll&G-dur→ h-moll(右4段目)】
《レガート(2声)》
臨時記号の音が、異国情緒を感じさせる曲。時々現れるヘミオラのリズム(2拍子なのに3拍子のように聞こえる部分)や、durとmollが交互に現れる中間部は、小さな貝がらがためらいがちにたゆたっている様子が浮かびます。
第11番 海の弔列
【d-moll→(右1段目)a-moll→(2段目)d-moll→(3段目)C-dur→(4段目)d-moll】
《リズム》
右手が歌い上げる2拍子と、左手が満ち引きする3拍子が交互に現れる曲。 半音階や臨時記号が多く、調性感はあまり感じられません。弔いの喪失感が、モノトーンなイメージで伝わってきます。
第12番 海ほうずきのうた
【b-moll→(左3段目辺り)es-moll→(右2段目)b-moll】
《レガート(2声)》
調号も臨時記号も多い、譜読みが難しい曲。左手の半音階の波にのって、右手がやや演歌風に歌います。最初のフレーズの最後の和音の僅かな明るさが、心に沁み...。一瞬の転調も、すぐに半音階に流されて、無調的な響きへと崩れていきます...。調性面でも、新鮮な難しさがある曲でしょう。
第13番 あこや貝の秘密
【Des-dur→(2段目)a-moll→(4段目)Des-dur】
《レガート》
調号は多いものの、メロディーが美しく歌いやすい曲。遠い調への転調部分、ここでおそらく「秘密」が明かされ出し...。ふと元のメロディーが戻りますが、最後から4小節目の思いがけない和音できっと「真実」が!元調に戻る快感を、実感できる曲です。
第14番 笛吹き奴のかくれんぼ
【G-dur→(2ページ2段目)a-moll(実はg-moll?)→(3ページ)G-dur】
《レガート(2声)》
両手ともに弾むリズムの、快活な曲。二匹の笛吹き奴(熱帯魚の一種?)が、隠れたり追いかけたり...でしょうか。手の交差が多いのも、かくれんぼをイメージすると面白くなってきます。途中mollに転調する部分は、多くの臨時記号で妖しい雰囲気が...。
第16番 伊勢海老おじさんがしてくれた「お話」
【B-dur】
《リズム》
3拍子(9/8)と4拍子(12/8)が入り混じる楽しげな曲。伊勢海老おじさんが、昔の思い出をのんびり語っているかのようです。転調とは呼べないほどの短い雰囲気の変化が随所に...。臨時記号ごとに、「お話」の内容が気紛れに変わっているのでしょう。
第18番 蟹の散歩道(プロムナード)
【D-dur→(左5段目)h-moll→(右1段目)a-moll→(右3段目)D-dur】
《リズム》
弾む付点のリズムが、蟹のひょうきんな足取りを連想させます。mollへ転調後、durに戻る直前で、何かすごいものを見つけて、思わず叫んでしまい...。ふと気付くと元調に戻っていました。
第20番 水泡のおどり
【Es-dur→(左5段目)Ges-dur→(右1段目)Ces-dur→(右2段目)Es-dur】
《ハーモニー》
左手の大きな波の上で、右手の水泡が楽しげに戯れている感じでしょうか。より明るい方へと2度転調した後、元調の大きな波が、夕暮れの暗さを伴って現れます。
第22番 珊瑚の唄
【cis-moll→(左4段目)gis-moll→(右1段目)cis-moll】
《レガート(多声)》
左手のcisのオスティナート(反復)が、神秘的な雰囲気をかもし出す曲。転調部分はそれがなくなり、あちこちの声部で珊瑚が自由に歌いだします。