16 ノクターンとピアノ文化 フランス近代とノクターン その1
19世紀後半のノクターンにおいて最初の大きな役割を担ったのがショパンとリストです。まず、ノクターンの美学を定着させたのはリストです。彼は「フィールド論」を著して、その作品の独自の美を論じました。リスト自体はノクターンという名の作品を残していませんが、ノクターン的な表現は彼のいくつかの作品に見て取ることができます。そしてこの二人は、フランスのピアノ文化の形成に大きな貢献を果たすことになります。
ショパンの影響は、サン=サーンスやマスネ、フォーレ、ドビュッシーなどの作曲家だけではなく、通俗的なサロン音楽の作曲家にも及んでいます。たとえば19世紀後半のフランスでサロン音楽を作曲したアンリ・ラヴィーナの作品にもショパンからの影響を認めることができます。しかし、19世紀後半から20世紀にかけてのドイツにおけるピアノ音楽のレパートリーの全体像が今日もなお闇の中にあるように、この時期のフランスのピアノ音楽も未研究の部分が多く、またそれぞれの作曲家に関する掘り下げた研究も少ないのが現状です。ここではまず19世紀後半から20世紀前期にかけてのフランスにおいて、どのような作曲家がノクターンを作曲したかを概観して、全体的な理解を深めたいと思います。
以下の作曲家は、フランスを舞台にノクターンを作曲しています。
アルベニスAlbeniz I. (1860-1909)
Cantos de Espana 作品232 第4曲Cordoba(Nocturne)
アルカンAlkan Ch.V. (1813-1888)
Esquisses Quatrieme suite No.43 Notturino-Innamorato
ビゼBizet G.(1838-1875)
Jeux d'enfants op.22 No.9 Colin-Maillard :Nocturne
フォーレFauré G.(1845-1924)
8Nocturnes
ファヴァルジェFavarger R. (c.1815-1868)
L'Adieu : Nocturne
ゴダールGodard B.(1849-1895)
Nocturne op.68
ゴリアGoria A.(1823-1860)
Melancolie : Quatrieme Nocturne caracteristique op.30
グノーGounod Ch.(1818-1893)
Nocturne(1865)
ダンディD'Indy(1851-1931)
Nocturne op.26
マスネMassenet J.(1842-1912)
Dix Pieces de genre. op.10 No1. Nocturne
フィリップPhilipp I. (1863-1958)
Nocturne op.90
ピエルネPierné G. (1863-1937)
Premier Nocturne op.31
Trois Pieces formant suite de concert. Op.40 No.2 Nocturne en forme de Valse
プーランクPoulenc F.(1899-1963)
8 Nocturnes (1929-38)
ロパルツRopartz J.(1864-1955)
Nocturne (1911)
サティSatie E. (1866-1925)
Trois Nocturnes (1919)
Quatrieme Nocturne (1919)
Cinquieme Nocturne (1919)
シュミットSchmitt F.(1870-1958)
Neuve Pieces pour piano op.27 No.5 Nocturne
Pieces romantiques op.42 No.5 Nocturne
上記の作品から分かるように、ノクターンの創作ではフォーレが群を抜いて創作数が多く、ついでサティが作品を書いています。これらの作品からノクターンは、必ずしもフランスの作曲家の主要な作品とはなっていないものの、万遍なく作曲されている印象が見受けられます。これらの作品はそれぞれ、多様な表現をもっていて、総合的な解釈を与えることはできませんが、この標題が愛好されたことは分かります。
ところで、19世紀後半の作品において標題が作品の内実とどれほど対応関係があるのでしょうか。というのはノクターンという題を持たないにもかかわらず、ノクターン的な情趣の作品は数多く見られるからです。作品の標題だけでは扱いきれない問題を多くはらんでいます。