第33回 ディヴェルティメント ヘ長調「先生と生徒」Hob.XVIIa:1
この曲はハイドンが作曲した唯一の四手連弾作品で、1楽章は7つの変奏曲つきのソナタとなっており、先生が先に旋律を弾き、生徒がその後を真似して追いかけるような作風になっています。2楽章はハイドンらしさにあふれたとても愛らしいメヌエットです。今回は入江一雄さんに先生パートを弾いていただきました。ソロとはまた違った楽しさのある作品ですので、ぜひ弾いてお楽しみください。
ハイドンが1760年28歳の時に結婚した、3歳年上のマリア・アンナ・アロイジア・ケラー(1729~1800)はウィーンでかつら屋を営んでいたヨハン・ペーター・ケラーの娘で、音楽には興味がなく嫉妬深い性格だったそうで、音楽史に名を残す悪妻のひとりと言われています。
自分の夫が芸術家であることに全く無関心だったため、ハイドンの自筆譜を紙切れ同様に扱い、包装紙代わりや野菜包みに使ったというエピソードや、浪費家であった彼女の借金の返済にハイドンが奔走していたという話も伝えられています。
そもそもなぜマリアと結婚することになったのでしょうか、これには理由があるのです。もともとハイドンはマリアの妹テレーゼに恋心を寄せていたのですが、残念ながらテレーゼは修道院に入ってしまい、結婚に至らす落胆していたハイドンを見ていた彼女の父親から、ハイドンより3歳上の姉、マリアをおしつけられるような形で結婚してしまったのです。
結局、生涯を通してハイドンとマリアは上手くいかず、16年間の結婚生活で子供も出来なかった上に、互いに愛人が存在し、ハイドンは43歳の時に歌手のルイジア(19歳)に愛情を抱くようになり、それ以降ハイドンとマリアは別居することになったのですが、結局マリアが71歳で亡くなるまで別れず、亡くなった後も再婚しなかったとのことです。
ユーモアのセンスがあるハイドンですから、もしマリアについて本でも書いていたらとても面白かったのでは、と想像しているのですが、何と曲では残しているのです。題名はずばり「悪妻」。彼女の死後作曲したとのことですが、曲で残すとは...さすが大音楽家ハイドン!